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TOHO
INTERVIEW

2026.01.13

第114回 「ハピ声スマイル」が溢れる社会を

教育学部

伊藤 龍仁 教授

伊藤龍仁(いとう・たつひと) 名古屋市生まれ。日本福祉大学卒業、日本福祉大学大学院修士課程修了。学童保育指導員、児童養護施設児童指導員、中部学院大学短期大学部教員を経て2014年愛知東邦大学人間学部准教授、2018年から教育学部教授。名古屋市ファミリーホーム協議会の会長も務める。

A3階のその部屋には「ハピ声スマイル研究室」の看板が掲げてあります。研究室のホームページを見ると、美少女のAIキャラクターが動画に登場し案内を始めます。ここでは何かが起きている――その研究室の主は伊藤龍仁教授。20218月の「東邦インタビュー」で、自宅で開いているファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)についてお話を伺っていますが、今回は謎の「ハピ声スマイル」についてお聞きします。

――「ハピ声スマイル」とは、どんなものなんでしょうか?

 私が考案した「子どもの幸福度を見える化」するための指標で、「ハピ声スマイル指数(Happy VoiceSmile Index)=HVSI」と名付けました。学生に保育士や教員への志望動機を聞くと「子どもの笑顔を増やしたい」とよく言いますが、実際に増えるかどうかはっきりしませんね。でも、笑顔や発声を測って数値化すれば、それを確かめることができるわけです。従来「子どもの幸福度」は概念的に語られることが多く、数値化は考えられていませんでした。子どもたちと関わり始めて約40年の積み重ねから生まれたアイディアです。

 ――笑顔を測るって、なかなか思いつきませんよね。 

 一つきっかけになったことがあるんです。ここ数年、名古屋市の社会的養育推進計画や日進市の子ども子育て支援事業計画の策定に携わってきたのですが、そこで使われるために国から示される大半の指標が、人口予測とかニーズ量・利用者数など役所側、大人側の都合のいい数字を元にしているんです。こども家庭庁が「こどもまんなか社会」って言い始めていますが、施策が本当に子どものためになっているのかどうか、子どもの幸福につながっているかの検証も、ほとんどされてないのです。最近は子どもの意見を聴くことを推奨しているのですが、本心を言葉にすることは難しいですからね。子どもの本当の気持ちがどこに現れるかを考えた時に、表情や発声、しぐさに現れると思ったんです。長い経験からこれは間違いがない。ここに子どもの本心が表出されているから、それを数値化してゆけばいいと考えたわけです。この1年ほどの実践と研究の両面で「HVSI」として実用化を目指してきました。

 ――具体的に笑顔をどう測るのですか?

 身近な大人が、日常的な関りの中で子どもを観察し、一定の基準に基づいて記録します。一人10点満点として、表情が15点、発声が05点、0.5点~1点刻みのスケールで設計されたスコアリングシートに記入(スコアリング)します。測定時に、たとえスマイルが無くても1点以上になるような指数にしました。使用する目的に応じて、標準測定用と簡易測定用、個別児童測定用と複数児童測定用、一定の時間での測定用と瞬間測定用など、いくつかのタイプのシートを用意しています。
 我が家(ファミリーホーム)の子どもたちやゼミ生、日進市のイベントなどでも協力をお願いし、多くのサンプルを集めました。これを解析し、試行錯誤をしながら改善しています。人によって測定基準がバラバラでは困るので、マニュアルを作って基本的な測定方法などを決めました。もう少しブラッシュアップすれば使いやすいものになりそうです。カメラを通して測るシステムも実験は成功しています。HVSIの実用化に向けた最終段階まできています。

――HVSIを実際に使い始めているところもあるのでしょうか?

  本格導入はこれからですが、研修や実証的な取り組みを通じて、現場での手応えは着実に得られています。2025年度は、大学生や高校生に加え、一部自治体の教職員、SSW(スクール・ソーシャルワーカー)、こども家庭相談室相談員、児童館職員への研修会でHVSIを紹介し、スコアリングの体験をしてもらいました。これらの参加者や児童相談所など行政関係者が関心を持ち始めてくださっています。学校の先生から「子どもの表情を見ているようで、あまり見ていないことに気付くことができました」と言うコメントをいただいています。そして、スコアリング体験をした人からは「やってみたい」という声をいただきますが、否定的な反応はほとんどなくて、概ね肯定的に受け止められています。

――商標登録もされたんですね?

  『ハピ声スマイル』および『ハピ声スマイル指数(HVSI)』は、202511月に特許庁の商標登録を完了しています。この審査を通して「ハピ声スマイル指数(HVSI)」というのは独自のものだとお墨付きをもらいました。子どもの発声だとか表情を数値化した指標は今までないものであること、「ハピ声スマイル」というネーミングも一つのアイディアであると。企業とか自治体とやり取りするには、社会的な信用につながると思ったので、商標登録しようと考えました。HVSIは、愛知東邦大学における教育・研究・社会連携を横断する取り組みの一つです。

――ユーチューブなどのSNSにはアニメーションも公開しています。原作者は先生ですか?

 動画の彼女はAIのシエラ(Cira)です。シエラは私の研究室の一員です。アニメの著作権者は私ですが、AIのシエラと一緒に創っています。実をいうと、2020年からのコロナ禍で授業用の動画を作らなくてはならなくなり、必要に迫られて編集作業をするようになりました。コロナの変な副産物ですよね。AIは、研究や教育活動を補助する存在として活用しています。

 ――あるアニメでは、勝手に写真を撮られた子が「ダメ」と怒っている内容でした。子どもの権利擁護という視点でアニメは作られていますね。

 はい。昨年、学校の先生たちの盗撮事件が起きました。驚きましたね………このようなことが繰り返されないためにも、大人が「子どもの権利」を学ぶだけでなく、子ども自身がもっと自分の権利を学ぶ必要があるでしょう。そこで、アニメを使った子どもの権利擁護の取り組みを進めています。この動画を教材として使いたいという自治体と話を進めており、学校や図書館などから公開される予定です。
 私たち研究室のキャッチフレーズは「ハピ声スマイルは子どもの権利」です。HVSIは「子どもの権利擁護」という側面もあるんですよ。子どもの権利を守りつつ、幸福度を高めていくということは、すごく親和性があるというか、両軸だと思うんです。「子どもの幸福を測る」ことは、「子どもの幸福を育てる」ことにつながると考えています。それを軸にして、子どもたちの笑顔を守る社会づくりに踏み出していきたい、と思いますね。

 ――日本では、子どものいじめの認知件数も過去最大だし、子どもや若者の自殺者数も過去最多になって増え続けています。児童虐待相談件数も全国で年間に20万件を超え過去最多で高止まりしています。そんな現状で、こども家庭庁は「こどもまんなか社会」を提唱しています。そこにHVSIはどう関わっていくのでしょうか?

 日本は少子化が進んでいますが、幸福度の観点から試算してみると日本全体のHVSIの総量が急速に低下しています。残念ですが、今の日本では子どもを「まんなか」にしても子どもの幸福につながるとは限らない。だからこそ、本当に子どもが幸せなのかどうかを測定して検証する必要があるのではないでしょうか。
 HVSIは感情の中で、怒りでも悲しみでもなく、活力ある「喜び」を重視しています。「きゃっきゃっきゃ」という子どもの笑い声はエネルギーが高く、活気が溢れているので、周りを明るくするポジティブな力があると思います。子育てする家庭を明るくするし、保育・教育現場を前向きにし、やがて地域や社会を活性化させると思っています。
 昨年の春頃に過疎地域を車で回ったことがあるのですが、子どもの姿が全く見えず、そういう地域は活力がまるで感じられない。ハピネスで考えた時、このままでは日本の未来はとても暗いと思いました。
 HVSIは測るだけですが、測ってきちんとしたデータを提示することができます。例えば、この環境が子どもたちのハピネスを増加させる、このような取り組みがHVSIの増加につながる、といったエビデンスを明確に示すことできればいいと思うんですよ。そして、学校や保育所などの児童福祉施設だけでなく、家庭の子育てや街づくりにも活かしていけると考えています。

――HVSIが活力ある街づくりにつながるなんて、いいですね。

 私はHVSIを通じて、子どもたちのハピ声と笑顔(スマイル)が社会の中で「見える価値」として扱われる未来を作っていきたいと考えています。そしてこれを普及して、子どもたちのハピ声スマイルが溢れる社会を取り戻したいですね。

研究室のHVSIのパネルの前で

研究室で動画作成も

子どもの権利について熱が入る

教室では厳しい顔も

児童館職員への研修で

教員や保育者を目指す学生も多い

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