検 索

寄 付

TOHO
INTERVIEW

2025.08.22

第111回 EQ磨いて、チャレンジを

副学長(理事)

舩木 恵一 教授

経営学部

舩木恵一(ふなき・けいいち)

 千葉県出身。1983年早稲田大学社会科学部を卒業。大手広告会社「第一広告社(現・ISBBDO)」に入社し、マーケティング企画を担当。1992年からシンガポールに赴任し営業拠点を立ち上げる。2001年に帰国後、保険、ファッション、広告、メディアなどの複数の外資系企業の経営に携わる。2015年に実業界から本学経営学部教授に就任。2018年に経営学部長、2021年からは副学長

 ソファーでゲームをしていた女子学生は「ここはたまり場です」と言ってクスクス笑っていました。その横で研究室の主、舩木副学長がパソコンでWEB会議に参加していました。別の日には、ゼミ生ではない4年生が1年生を連れてきて他愛のないおしゃべりをしていたり、ゲームに熱中している学生の傍らで、卒論の相談を受けたりしている舩木副学長がいました。雑多な談話室、まさに「たまり場」というのがぴったりの舩木研究室です。

 

――「たまり場」と言われるほど学生がよく集まってきていますが。

  自分の頃もそうですが、学生にはこういう息抜きする場所が必要なんですよ。他にこういう場所が少ないから来てるだけで、時にはきついことも言うし、ただ慕われてるわけではないと思いますよ。でも自分の分身が増えたという感じでしょうか、遺伝子を少しずつ植え付けているような楽しみもあります。この子たちが生き生きとして成長していくのを、近くで実感できるのも楽しいですね。

 

――学生が研究室に集まっている状況を上條(憲二・経営学部教授)先生が「思った通りの光景だ」とおっしゃっていました。上條先生が舩木先生を本学に呼んだとお聞きしています。上條先生は「マーケティング能力」や「グローバルビジネスセンス」「英語力」といったビジネスパーソンとしての能力以外に「新しいことにチャレンジする精神」「学生の目線で対等に向き合う人間性」を、教員として推薦した理由に挙げておられました。学生も自分たちと接する先生のスタンスを分かっているのではないでしょうか。そこまで見抜いていた上條先生との関係は?

  第一広告社の先輩です。長く同じチームで広告主のマーケティング企画を担当していました。どうやって他の広告代理店に勝つか、徹夜で議論し、企画アイデアを練ったこともありました。もう同じ会社ではなくて外資系メディア企業の社長をしていた時に、上條さんから「大学教員をやってみないか」と声が掛かったんです。

 

――上條先生に誘われたのは50代半ば。安定した経営者の職を捨ててまで、なぜ、まったく経験の無い教育者の仕事を受けたのですか?

  東南アジアで仕事をしていたので、アジアの人たちには勢いを感じていました。同世代でも視野の広さ、エネルギーが日本の若者とはまったく違っていた。帰国後、外資系の広告会社の経営者を3社ほど経験したんですが、その時、日本人の中で頼りになる若者ってあまりいないな、と。英語ができるとか広告のアイデアは持ってるという人はいても、両方を持ってる、グローバルな視野を持った若者はいないと感じていました。日本の若者たちはうまくいかない理由を周りや環境のせいにしてしまう面もあったし、このままならアジアの若い人の勢いに負けちゃうな、と思っていた頃でした。そこへ上條さんからお誘いがあったわけです。経営者として社員教育をしてきただけでなく、依頼を受けて広告主の社員向けセミナーを行った経験から、若者を育てるのもいいかな、と思いました。世界に通用する若者を1人でも2人でもいいから育てたい、と思うようになり、これが一番の動機ですかね。自分も才能なんてなかったけど、たまたま出会った人たちによって磨かれたに過ぎないと思っていますから。

 

――教育者として研究分野は「マーケティング」や「情報メディア」「コンテンツビジネス」などです。今は「イノベーション入門」の授業も受け持っています。実務での経験は生かせていますか?

  本来の研究者とは違いますから、期待されているのは、授業では実務的な視点や体験を語るしかないと思っています。ちょうど広告業界でも従来の「仲介型」のビジネスから「投資回収型」に変わる時期でした。例えば国際的なスポーツ大会や文化交流といったイベントを企画して、企業からお金を出してもらって、それをさまざまな形でコンテンツとして売って回収するモデルになりました。広告ビジネスの流れがコンサルティングに移りだした時代でもありました。こうした「イノベーション」はどの産業でも起こせる、いつでもどこでも誰でも起こせると学生には話しています。インターネットなどの技術によってビジネスの在り方が変化してゆく中で、たくさんの成功例や失敗例を見てきました。「東邦プロジェクト」という授業では、変化し続ける社会で生きていけるよう、一つのことしかできないんじゃなくて、柔軟性を持った学生を育てたいと考えています。

 

――話は変わりますが、秋から導入される学生ポートフォリオの責任者です。デジタル技術にも関心が高いゆえの担当だと思います。聞きなれない言葉ですが、ポートフォリって何ですか?

  本学が第三期中期経営計画として進めているDX(デジタル技術を用いた大学改革)の一環で、私がその責任者なのです。ポートフォリオとは簡単に言えば、学生が自分の歩いてきた軌跡を客観的に認識し、かつ自己評価できる仕組みです。大学は学生に関するデータはいろいろと持っているんです。これまでは、正課学習での成績は教務課、出身校とか入試前の成績などは入試広報課、正課外活動や就職活動は学生・キャリア支援課など、バラバラにデータを持っている状態です。でも相関とか関連性が見えなかった。データを使う側としては不便なものでした。学生の指導や指導前の予測、中退防止政策や学生募集マーケティングなどの経営データとしても十分ではなかった。ある程度は教職員の経験と勘の依存度が高く、本学のような規模ならデータの統合と分析はできないことはなかったと思います。それをポートフォリオで管理することで、例えば「なぜ中退するんだろう」とかもデータを作り直すのではなく、今のデータの相関性で見えてくるものがあると思います。

 

――それは大学・教員側のメリットですが、学生にとってのメリットは何ですか?

  各科目には、学位を取得するための目安となる、ディプロマポリシーが設定されています。ポートフォリオは、自分は何(どのポリシー)が伸びており、何が弱いのかが可視化できるようになります。GPAと取得単位だけでは分からないが、ポートフォリオを使えば自分の得意分野が分かるわけです。この分野を伸ばしていこうとか、自分の弱いこの分野はもうこれぐらいでいいとかを、自分で判断できるようになります。目標を決め、自分でチェックし、主体的に動くような設計にしたい。自分のいいところを理解してそこを伸ばせよ、と。つまり大学が推す「オンリー1」に繋がるわけです。デジタルは魔法の杖ではないけれど、要は使い方です。デジタル技術を使って学生の自己認識の機会を増やし、主体的な学習意欲を上げようというわけです。

 

――学習の成績だけでしょうか

 

 自分は課外活動を一生懸命やった。大学祭でこんなことをやった。ボランティアでこんなことをやった。こんな取材を受けた。写真も入れられるようにして、大学4年間の個人のアルバムみたいなものができるようにしたいと思っています。このポートフォリオは大学公認のものだから、企業に提出すれば成績表以外に自己PRが可能なものとなります。

 

――自分でデータを入れるとなると、今の面倒くさがりの学生がやるでしょうか?

  まだすぐには開始できませんが、ポートフォリオの利活用にはゲーム化を考えています。ゲームみたいに楽しみを付けないと、今は大人でもやらないでしょう。例えば、自己の学習課題やディプロマポリシーの向上目標、課外活動の計画などを立てたらバッジを1個、達成したらバッジを1個、写真を入れたら1個とか、こういうバッジ機能はぜひ付けたいと思っています。ある程度バッジを貯めたら学食券をもらえるとか、ちょっとした楽しみとなりそうなきっかけも与える。そうすれば、ポートフォリオを基にいろいろなランキングも可視化できる。それを元にした表彰制度もできますよ。自分なりに成長できたという実感もあるんじゃないでしょうか。それが満足度につながります。そして、「オンリー1」の自分につながる、と思います。

 

――いつから始めるのでしょうか?

  スタートするのは後期からですね。全部いっぺんにというわけにはいきませんが、徐々に整えていきたいと思っています。前期の成績の提示から始めようと思います。後期の始まりにゼミで体験し、後期の目標設定などの機会にして欲しいと思います。特に12年生はより長期的な目標を考えてもらいたいですね。2027年頃には約6割の学生が定期的に利用している状態を目指します。

 

――最後に、愛知東邦大学の学生はどうですか?

  会社からシンガポールに行きを命じられた時、今までと変わったことをやりたいと自分で手を挙げました。でも当時は英語なんてほとんどしゃべれなかった。ただ自分で選んだ道なのでやらざるを得ず、必死になって勉強しましたよ。動機があれば人間は何とかするもんです。うちの学生に限らず、失敗を恐れる若者が多いため、成功体験が少ない学生が多い。彼らに言いたいのは、偏差値など第三者が決めた評価を気にせず、自分を磨くために何かにチャレンジして欲しいと思います。失敗は恥でも悪でもなく、成長の源なのだから、そんな狭い舞台に自分を閉じ込めるのはやめて、視野を広くもって欲しい。成功の反対は失敗ではなく“何もしない”ということ。だから自分から損をしている感じがしています。だから変わりたかったら、何かにチャレンジしなさい、と言っています。愛知東邦大学と有名な大学の学生ってそんなにEQ(人間理解力、心の知能指数とも呼ばれている)に差がないと思うんですよ。それならAI時代にますます必要になるEQをもっと磨いちゃいなさいよ、って言ってるんです。自分を客観的にみて、もっと成長したいという意欲があれば、 学生は大きく変わりますよ。

WEBで会議中

学生と話すことも楽しみ

広告会社時代、当時の上司だった上條教授と

研究室にはVR機器も

学校法人 東邦学園

〒465-8515
愛知県名古屋市名東区平和が丘三丁目11番地
TEL:052-782-1241(代表)