手嶋研究室を訪ねたのは「和丘祭」の前でした。経営学部のプロジェクト科目とゼミで沖縄銘菓「紅いもタルト」を販売するため準備中でした。「自分でやったほうが早いんですけどね。でも、学生が経験することに意味があるから」とキャリア教育の専門家らしい顔を見せました。どことなくとっつきにくい感じですが、学生の話になると一瞬で人懐っこい笑顔に変わりました。その話の中で「チャンプルー教育」なる言葉も飛び出しました。さて、その意味は?
――なぜ、沖縄のお菓子を販売しているのですか?
沖縄県中部にある読谷村と本学は2016年に連携協定を結んでいます。地域の活性化に貢献できればという思いから、大学祭で紅いもタルトを販売する取り組みを始めました。村と言っても人口4万人の日本最大の「村」なんですよ。読谷村に本社のある企業で作っているのが、村特産の紅いもを使ったこのタルト。生の紅いもは法律で沖縄県外に持ち出せないので、加工品であるこのお菓子を売り出そうと考えたわけです。経営学部の予算で仕入れ、価格設定、ポスター制作、販売までの全工程を学生と一緒に行います。これって経営の実践なんですよ。新しくできたコミュニケーション・デザイン学科に進む学生が、販促用のポスターを作ってくれました。
――大学祭でのビジネス実践授業という位置づけですか?
昨年から始めました。ほかに担当する人がいなかったので私が引き受けたのですが、売れ残って“失敗”することも多いんです(笑)。でも、それでいいと思っています。学生は、教えなければできないことが多い。成功も失敗も含めて、経験の数を増やすことが何より大切なんです。
――その考え方が先生の「経営学」の根本にあるのですか?
学生時代から「実際にやってみることで経営は身につく」と感じていました。卒業して講師になり、最初に勤めた高田短大には、企業での実務経験を持つ先生が複数おられ、その影響で日本ビジネス実務学会にも参加し、実務につながる研究発表を行っていました。そうした環境の中で、「仕事に役立たない経営学は違うのではないか」という思いが生まれました。経営は現場でこそ本質がわかる。研究ももちろん大切ですが、実務と研究を融合させることが、本来の経営学の姿だと考えるようになりました。
――本学では「キャリア教育」といえば手嶋先生と言われるようになってきたわけですが、それもそういう考えの延長線上ですか?
高田短大は当時も「社会体験実習」というインターンシップをやっていたんですね。キャリア教育の重要性も言われだしてきて、愛知東邦大学でもそういう方向でやっていこうとインターンシップ専門の教員を募集していました。私は高田でやっていたからと応募し、採用されました。当時、「キャリア教育」科目を専門に担当する人は少なかったと思いますよ。ちょうど国もキャリア教育推進に力を入れ始めた時期で、以来、ずっとキャリア教育一筋です。専門が経営学だと思われていないかもしれませんね(笑)。
それと、戦前の東邦商業学校は「社会学実習第一課」という名の、今でいう「インターンシップ」を行っていたんですよ。それを知って、すごい縁を感じたものです。
――インターンシップは今、“企業とのマッチング”の印象が強いですよね。
以前は、フリーター化が問題視されていた背景もあり、「きちんと働く力を身につける」側面が強かったと思います。しかし現在は、就職活動の一環として捉える学生がほとんどです。でも私は、経営学部の学生には“学びの深まり”を持ち帰ってほしい。企業での経験の中で、講義で習った「経営組織論」や「コスト管理」などを思い出し、自分の思考にフィードバックしてほしいんです。インターンシップとは、学びと実体験をつなげる場であるべきだと思っています。
――先ほどからお話をうかがっていると、学生には厳しいことを言っているように聞こえますが、それでも言葉の端々に学生への愛情みたいなものが感じられます。学生との距離が近い、フラットな目線の人という評価も聞きますが。
愛情かどうかは分かりませんが、学生から切り離されたら私は何もできません。私が最も力を発揮できるのは、キャリアや学生支援の分野だからです。学生の間では「陽キャ」「陰キャ」といった言葉が使われますが、陽キャの学生は目立つし、自分で動く力もある。周囲から引っ張り上げてもらえる機会も多い。でも私は、スポットライトの当たりにくい学生にこそ目を向けたいんです。自分はダメだと思っている学生に、「そんなことはないよ」と伝えたい。スターじゃなくても、自分のペースで努力している学生はたくさんいます。そうした一人ひとりが認められる場をつくりたい。「裏のTOHO Stories」とでも言いますか、スポットライトの光が届きにくい学生にも、ちゃんと光を当てたいんです。そうした学生に「あなたにはあなたの価値がある」と伝えられる場所をつくっていきたいと思っています。
――やっぱり学生が好きなんですね。
好きだとは思ってないけど、好きなのかな(笑)。沖縄料理にチャンプルーってあるじゃないですか。さまざまな食材を混ぜ合わせてつくる料理。私は大好きなんですが、同じような素材ばかりだとチャンプルーにならない。美味しくないでしょ。話は飛躍するかもしれませんが、愛知東邦大学の「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」という理念も、私はチャンプルーに近いと感じています。同じような学生ばかりじゃ、チャンプルーにならないですからね。多様な個性を持つ学生が混ざり合うことで、大学は豊かな学びの場になる。ゼミとプロジェクト科目の混在、学年や学部を越えた越境、さらには他大学との共同研究――異なるもの同士が混ざり合い、新しい価値を生む。それが、私の考える「チャンプルー教育」です。
――最後に本学の学生に一言
一言でいえば、「もう少し勉強しようよ」です。ここでいう「勉強」とは、座学だけではありません。今、自信をなくし「自分はダメだ」と思いこんでいる学生を、その思いから引き上げたい。それがキャリア教育の本質だと思っています。社会に出ると、偏差値とは違う基準で評価されます。ちゃんと頑張る人・頑張らない人、働ける人・働けない人――そうした軸で見られる世界です。「自分はこの程度だ」と決めつけないでほしい。あなた自身の価値は、大学のランキングとは関係ありません。そして、あなたには必ず可能性があります。今の社会は、目の前に楽しいことがいっぱいあったりするけど、楽なほうへ逃げるのではなく、そこで満足するのではなく「自分の力で未来を切り開いていけるよ」って伝えたいですね。



