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TOHO
INTERVIEW

2015.05.19

【第1回】教師・保育士への道は「サービス・ラーニング」から。名東区の小学校運動会などで1年生が現場体験

教育学部子ども発達学科

今津孝次郎教授

教育学部長、教育原理

今津孝次郎(いまづこうじろう)

徳島県生まれ。京都大学教育学部卒、同大学院教育学研究科博士課程満期退学。京都大学助手、三重大学教育学部助教授、名古屋大学教育学部助教授、同大学院教育発達科学研究科教授を経て2013年から愛知東邦大学教授。博士(教育学、名古屋大学)。専門は教育社会学、学校臨床社会学。著書に『教師が育つ条件』(岩波新書)、『学校臨床社会学』(新曜社)など。

 教育学部が「サービス・ラーニング」と呼ぶ現場体験学習を掲げて本格的に動き出しました。ボランティア活動を一歩進めた、全国の教育学部でも先駆的な取り組みで、入学間もない1年生たちは、名東区内の小学校や幼稚園・保育所・児童舘の行事運営を手伝いながら、教師や保育士を目指す学びの一歩を力強く踏み出します。教育学部長の今津孝次郎教授に聞きました。

――「サービス・ラーニング」とはどんな学習スタイルですか。

 愛知東邦大学の教育学部 子ども発達学科は、従来からの保育者養成に加えて、小学校教員養成課程を導入して昨年度(2014年度)、スタートしましたが、1年生たちはさっそく5月に名東区内の小学校5校に出向き、運動会運営の手伝いをしながら実際に子どもたちや教師、保護者と関わっています。学生たちにとっては教育現場に触れる貴重な体験学習です。最初はボランティア活動として学生たちに参加を呼びかけましたが、その後、教育的効果などについて教育学部内で話し合った結果、「サービス・ラーニング=Service Learning (SL)として位置づけるべきではないか」ということになりました。SLという言葉 は1990年代後半にアメリカで生まれた「地域諸機関での奉仕活動を通じた経験学習」のことです。ボランティアは高齢者福祉、障がい者福祉、被災地支援など広範囲で自発的な奉仕活動ですが、SLは自発的であるか否かを問わず、教師や保育士になるための経験学習に焦点を当てた独自の用法です。

――学生たちはどうして運動会の手伝いに出かけたのですか。

 これまでの教育学部は国立大学が大半でしたが、最近は私立大学にも保育士養成を含めて教員養成を目的とする教育学部が相次いで開設されています。それだけに特色がないと新学部は埋没しかねない厳しい競争の時代にもなっています。私は開設1年前に着任しましたが、特色づくりのヒントを得ようと、名東区内の全19小学校を訪ね、校長先生たちからお話を伺いました。多くの校長先生たちが指摘したのは、「最近は子どもや親の実態が大学の授業では追いつかないほど大きく様変わりしている」という点でした。「”座学”で教師は育たない、要は子ども一人ひとりとどれだけ一緒に遊べるかだ」と語る校長先生たちもいました。学校現場は、授業以外でも抱えきれないほどの仕事に追われており、「運動会の運営を学生さんたちが手伝ってくれるのなら大助かり」との声も相次ぎました。これが、学生たちが運動会の手伝いに出向くことになったきっかけです。地域の生きた教材から学ぶ絶好のチャンスであると思いました。それに教育学部の地域貢献にもなりますから。

――4月15日に行われた教育学部新入生ガイダンスでは、今津先生から『「サービス・ラーニング」ハンドブック』の紹介がありました。

 教育学部新2年生たちの30人近くが昨年の運動会の手伝いに参加しまた。その実践事例や教訓をベースに、手引書として作成したのがハンドブックです。現場での体験から学ぼうという取り組みは、小学校だけでなく、幼稚園や保育所、児童福祉施設などにも広がっています。担当した指導教員たちは、これらの取り組みを「プレ教育(保育)実習」と位置づけるとともに、経験ある2年生が新1年生をコーチするために活用するのがこのハンドブックとなります。30ページの中身は「諸機関訪問時の心得」「守秘義務とSNSコミュニティサイト書き込み厳禁」「訪問時の留意事項と提出書類・作成ノート・礼状」などです。内容はまだ十分ではありませんが、来年以降、版を重ねるごとにどんどん充実していくと思います。全国に先駆けたこのハンドブックの発行は私たちの誇りでもあります。

――三重大学、名古屋大学勤務を経ての愛知東邦大学勤務ですね。

 三重大学教育学部で10年、名古屋大学教育学部に23年間勤務し、63歳で定年退職しましたが、愛知東邦大学から「教育学部開設のためにぜひ力を貸してほしいと」と声をかけていただきました。愛知東邦大学の創設者である下出民義翁は明治期から大正期にかけて、発電事業、鉄道業、製鋼業など名古屋地域の近代産業を興し、地域の発展に貢献した中部産業界のリーダーでしたが、実業界に転進するまで、出身地(現在の大阪府岸和田市)で10年近く小学校教員を勤めました。愛知東邦大学は92年前、民義翁によって創設された東邦商業がルーツですが、成田良一前学長や榊直樹理事長・現学長の「教育学部開設には、民義翁の教育への熱い思いが込められています」という言葉に心を動かされ、お引き受けしました。

――『学校と暴力~いじめ・体罰問題の本質~』など教育社会学の分野での著書もたくさん書いていますね。

 今年度の後期には2年生向けに「教育社会学」の授業を担当します。昨年10月に出たばかりのその本をテキストに使います。私が20年以上かかわってきた「いじめ」や「体罰」の問題を「暴力」の観点から総合的に検討し直して書いた平凡社新書です。今年2月には川崎市で中学1年生の男子生徒が少年らに殺害されるという悲惨な事件があったばかりです。教師をめざす学生たちにとって、こうした悲しい事件も避けては通れない現実です。現代社会に目を向けた授業とともに、私が今準備しているのは、特に小学校教師をめざす学生たちに向けて、新しい図書館(ラーニングコモンズ棟)にそろえられている新書群の中から私が選んだ120冊リストのうち、各自が関心のあるものを毎月2冊ずつ計24冊を選んで一緒に読破して教養を高める「今津塾」のような集いの開設です。1年生の時のサービス・ラーニング、2年生の「今津塾」の集い、そして3年生からは本格的な教員採用試験の準備を通して、愛知東邦大学教育学部が胸を張って送り出す教師が続々と誕生することを期待しています。

ガイダンスで『「サービス・ラーニング」ハンドブック』について紹介する今津学部長(4月15日)

「どんどん本を読み世界を広げてほしい」と語る今津教育学部長

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