第98回全国高校野球選手権大会に春に続き夏17回目の出場を果たした東邦高校。愛知大会優勝をかけた岡崎市民球場での決勝戦では、愛知東邦大学硬式野球部の全部員65人が、メガホンを両手に熱い声援を送りました。部員たちを率いた荻巣幹典コーチに聞きました。
――愛工大名電対東邦の愛知大会決勝戦には、横道政男監督を始め愛知東邦大学の硬式野球部部員たち全員が応援に繰り出しました。学生たちに決勝戦を見せたかったのですか。
愛知大会は全国最多の190チームが参加し、強豪校がひしめく全国でも最激戦区。その決勝戦というレベルの高い試合をぜひ部員たちに見てほしいと思いました。もちろん学校も、野球部グラウンドも隣同士(大学は日進市、高校は東郷町)であり、同じ東邦学園であるというのが最大の理由です。野球部同士の伝統や実績から言えば高校の方がずっと上ですが、大学野球部も頑張って、いつの日か、学園全体で応援してもらえる日を迎えられるよう力をつけたいと思っています。部員たちにそうした自覚をしっかり持ってほしいこともあります。
――部員たちは、えりに「TOHO」のロゴが入った白いポロシャツに黒ズボン、革靴姿。1万7000人の大観衆の中でしたがスタンドでは結構、目立ちました。
年輩の高校野球ファンの方から「身だしなみがしっかりしているねえ」と声をかけられた部員もいました。「君たちはどこの学校の野球部なんだ」と聞かれて「東邦高校と同じ東邦学園の愛知東邦大学です」と答え、その答え方も好感を持たれたようです。東邦高校野球部の大先輩でもある横道監督もその話を聞いて嬉しそうでした。服装を正すことは学生スポーツ選手であることの自覚につながります。関東の大学野球部でしたら、おそろいのブレザー姿ということになるのかも知れません。
――東邦が春夏連続で甲子園に出場するのは17年前の1999年以来。荻巣さんが東邦高校に入学した年ですね。
そうです。今年の東邦高校は藤嶋健人投手が引っ張りましたが、僕らの1年生の時は、3年生だった朝倉さん(健太=元中日)が投げ、岡本さん(浩二=元阪神)が打線の中軸を務める一方、今年の松山仁彦選手のように、投手としても大活躍しました。今年と同じようにチームに勢いがありました。ただ、17年前は残念ながら春は平安に1-5で、夏は滝川二に5-6で、いずれも1回戦敗退でした。1年生の夏は甲子園遠征メンバーに加えてもらいました。1年生は3人だけで、僕は投手だったので開会前の甲子園練習ではバッティングピッチャーもさせてもらいました。試合が始まるとメンバー以外の3年生たちとアルプススタンドから応援しました。
――3年生の時の東邦高校は春の選抜大会にも出場していますね。
2001年の第73回大会です。開会式直後の第一試合だったので、甲子園での“21世紀最初の高校野球”と話題にもなりました。やはり残念ながら1回戦で東海大四(現在の東海大札幌)に2-6で敗れました。僕は背番号10でベンチから2回の伝令と3塁コーチに出ましたが投手としての出番はありませんでした。8回くらいに「投げるか」という声もかけてもらったのですが、東邦が追い上げて点を取り、僕の出番はありませんでした。3年生最後の夏の愛知大会は今年の愛工大名電と同じようにノーシードでのスタートでした。3回戦でシード校としては初戦だったその愛工大名電に2点差で負けました。
――今年の愛知大会決勝戦後のインタビューで藤嶋選手が、スタンドから声援を送ってくれた3年生たちを始め、「チーム東邦」一丸となっての優勝だったことを強調していました。
僕も感動しました。愛知大会の戦いぶりを見ていても、藤嶋君のチームメイトや応援してくれた仲間たちに感謝する気配りはよく分りましたが、インタビューはその全てを物語っていたように思いました。野球に打ち込んできた3年生たちにとって、甲子園の夏が終わると、野球生活との別れの季節を迎えます。3年間、苦しい練習を積み重ねてきたことは、大学に進むにしても、大学を出て仕事をするにしろ、これからの人生に必ず生きてくるはずです。自分の体験からも、特に甲子園のグラウンドに立つことなくアルプススタンドから応援する3年生たちは胸を張ってほしいと思います。試合に挑む部員たちも、信頼の絆で結ばれた仲間の応援を背にするからこそ頑張れることを誇りに持ってほしいと思います。春、夏とも甲子園で応援できること自体がすごいことなのですから。
――愛知東邦大学硬式野球部も1部リーグ昇格を目指し、これからが正念場ですね。
同じ学園ですからこそ、晴れ舞台で活躍する東邦高校に負けたくないという強い気持ちが、自分たちも1部リーグに上がろうというエネルギーになればと思っています。僕は横道監督という器の大きな監督の下で、学生たちに野球技術の指導を任せていただいています。それを支えているのは、控え選手だった東邦高校時代の貴重な体験と、東北福祉大学野球部学生コーチとしてチーム戦略を練り、チームを全国大会出場7回、優勝1回、準優勝2回に導けた自信です。もちろんこれからが正念場ですが、愛知東邦大学の実力は着実に上がっています。今年は待望のプロ野球からのドラフト指名がかかりそうな選手もいます。さらに昨年の卒業生で、市立和歌山高校の野球部副部長に就任した南方(みなかた)拓磨君のように愛知東邦大学卒業生が高校野球指導者として活躍するケースも出てきました。ちなみに市和歌山はこの夏、決勝戦で箕島高校を破った和歌山県代表校。東邦高校とともに甲子園に登場します。