検 索

寄 付

語り継ぐ東邦学園史
歴史を紐解くトピックス

第67回

海外研修スタート

1978

更新⽇:2019年12月2日

カリフォルニア大バークレー校

田辺さん(旧姓田口)が受け取ったバークレー校の研修認定証

 東邦短大が学生たちの英語力を鍛えよう、米国カリフォルニア大学(UC)バークレー校での1か月間の海外教育研修制度をスタートさせたのは1977(昭和52)年夏からでした。新東京国際空港(現在の成田国際空港)の開港が翌年の1978(昭和53)年5月で、学生の海外旅行がまだめずらしかった時代でした。

 東邦短大後援会誌「邦苑」各号に掲載された海外研修担当教員たちの寄稿によると、制度は、前年の1976年夏、小津昭司助教授(後に教授)が個人の資格で17人の学生たちを引率して実施したアメリカ西海岸旅行がベースとなりました。小津氏はこの西海岸旅行について、日本税法学会研修を学生向けにアレンジした企画だったことを『東邦学園短期大学の43年』に書き残しています。

 大学が学生たちを引率してアメリカに研修旅行に出かける試みは、名古屋地区ではまだめずらしく、誕生した制度にあこがれて東邦短大入学を希望する受験生も現れるようになりました。東邦短大の海外教育研修制度は、その後、研修先となる受け入れ校の変遷はありましたが制度として定着していきました。

 UCバークレー校での研修は「アメリカ英語研修と商業教育の旅」を掲げ、1981年まで5年間続きました。海外教育研修委員会の委員長に就任した橋本春子教授(後に学長)は「邦苑」15号(1994年)に、「カリフォルニア大学バークレー校との電話や文書による連絡など、事前、事後の準備や整理など全てを担当しました。引率する方も大変でした」と書いています。

 参加学生は第1回(1977年)34人、第2回(1978年)59人、第3回(1979年)59人、第4回(1980年)33人、第5回(1981年)29人です。

 

受験生にもインパクト

バークレー校キャンパスの中庭での田辺さん(前左)

 1年生の時に第2回研修に参加した1978年入学の14回生で会計税務コースの千田里美さん(旧姓中村)にとって、東邦短大受験の決め手となったのは海外教育研修制度でした。千田さんは愛知県立丹羽高校出身。「高校の進路指導室の資料棚で、東邦短大の海外研修制度の情報を見つけた時の感動は今でも鮮明に覚えています」。還暦を迎えた千田さんですが、高校3年生時代のインパクトは今でも忘れられないようです。

 同じ14回生でやはり1年生で第2回研修に参加した経営管理コースの田辺淳子さん(旧姓田口)の場合、海外教育研修に強い関心を持ったのは本人よりも父親でした。「私は入学式の説明会で初めて制度があることを知りました。ところが、説明を聞いた自営業の父親が〝外の文化を知ることは大事だ。素晴らしい。〟とすっかり感動してしまい、申し込みを決めてしまったのです。私は英語も自信がなくて、海外留学なんて夢にも思っていなかったので驚きました」。

 今のようにカード決済が普及していなかった時代。田辺さんの父親は「現金よりは安全だから」と、TC(トラベラーズチェック)と呼ばれる旅行小切手を持たせてくれました。

 15回生(1979年入学)で会計税務コースの花園みどりさん(広島県三次市)は1年生の時に第3回研修、2年生の時に第4回研修(ホームステイ)の両方に参加しました。

 「個人負担は30万円以上かかったと思いますが、親も応援してくれました。参加して日米の文化の違いも分かったし、日本の良さも再認識しました。バークレー校の大きな寮を利用した1度目も、ホームステイでの2度目も新鮮でした。参加して本当に良かったです」。花園さんも懐かしそうでした。

英語漬けの日々と観光オプション

アルバムを手に思い出を語る松井さん、宇野さん、田辺さん(左から)

 14回生経営管理コースで、2年生の時に第3回研修に参加した松井直樹さん、宇野妙子さん(旧姓加藤)が、同期生の田辺さんと3人で、母校を引き継いだ愛知東邦大学を訪ねてくれ、アルバムを開きながらバークレーでの1か月の思い出を語ってくれました。田辺さんは1年生の時の参加ですが、松井さんと宇野さんは、田辺さんら第2回研修組の体験談を聞いたのが参加のきっかけになったそうです。

 松井さん、宇野さんら第3回研修組が出発したのは夏休みに入る前の6月30日。東京では前日まで第5回先進国首脳会議(サミット)が開催されたこともあり、松井さんによると成田空港から飛行機に乗り込むまで3、4回のボディーチェックを受けたそうです。

 当時はまだ成田空港建設反対運動が収まっていませんでした。田辺さんは「出発の時だったか、帰国の時だったかははっきりしませんが、空港でタイヤが燃やされ緊張したことを覚えています」と言います。

 サンフランシスコ空港からバークレーまでバスで1時間。インターナショナルハウス(I

ハウス)と呼ばれる寄宿舎での1か月の研修がスタートしました。田辺さんは「Iハウスの食堂は多国籍の利用者であふれていましたよ」と語ります。

 英語の授業は、最初に小テストがあり、レベル別に3クラスに分けて行われました。1時間目は午前8時から9時50分、2時間目は10時10分から12時までと110分授業が2コマでした。田辺さんのアルバムには「110分の授業と朝7時の起床は辛かったけど、1日も欠席しなかったもんね」という自筆メモも挟まれていました。

 松井さんも、「月曜日から金曜日の朝一番から午前中は全て商業英語の授業。日本人ばかり1クラス10人もいない少人数授業で、初めて体験した英語漬けの日々でした」と振り返りましした。

 午前中の英語特訓授業を終えた学生たちは、午後は大学周辺のいろんな所に出かけて、英語でインタビューして翌日の授業で発表するプログラムもこなしました。

 週末には観光地を訪ねるオプショナルツアーも用意されていました。3人ともアナハイムにあるディズニーランド、ヨセミテ国立公園、グレイトアメリカの遊園地などの観光地に繰り出しました。松井さんたちが広げたアルバムには、バークレーの街並みを散策する田辺さん、映画「卒業」の結婚式シーンに登場するバークレーの教会を背景にした宇野さん、サンフランシスコ市内に繰り出した松井さんの写真もありました。

 「1か月は長かった」(田辺さん)という研修旅行行の締めくくりは3日間のハワイ滞在でした。

ホームステイも始まる

松井さん(入口右端)と宇野さん(ピンクのスラックス)

 1980年の第4回研修の参加者は33人ですが、この回からホームステイも始まり、9人が受け入れ先ファミリー宅に滞在しました。15回生の花園さんも「せっかくホームステイが始まったのでぜひ体験したかった」と2度目となる研修に参加しました。

 花園さんはミッションスクールの広島女学院高校出身。実家が金物店を営んでおり、店を継ぐため、簿記、会計が勉強できる短大を探し、東邦短大に入学しました。

 短大時代はユースホステル研究会に所属し、鈍行列車での旅行も楽しんだという花園さんは、思い出の詰まった短大を卒業する際に配られた「邦苑」2号(1981年)に、アメリカ研修の思い出を書き残していました。

 「ある本に、2度目の海外旅行より、初めての海外旅行の方が印象深いというようなことが書いてありましたが、私にとっては、1度目も2度目もその体験は新鮮で非常に印象深いものでした。去年は日に半分も英語を話さないでも生活できましたが、今年は違います。一日中、ほとんど英語を使い、見るもの、聞きもの新しいものばかり。ファミリーはまだ若い夫婦と7歳、3歳半、2歳半の3人の子供の5人家族。子供たちはとてもよくなついてくれ、私のことを姉だと友達に紹介してくれました」。

 第4回研修の引率教員だった石田隆名誉教授は「サンフランシスコの空港に着くと、ホームステイ先の人たちが、それぞれ学生の名前を書き込んだプラカードを掲げて待っていました。これから単独行動になる学生たちの中には悲壮感が漂う学生もいました。みんな必死に自分の名前を探していましたよ」と振り返ります。

 石田氏によると、受け入れた学生との別れを惜しんで、ハワイま見送りにでついてきたファミリーもいたそうです。

 

デザイン作品展も開催

 第4回研修の際には、「学生たちの作品をアメリカ市民にも見てもらおう」と、東邦短大から送り込んだ商業デザインコースの学生たちの作品展もサンフランシスコで開催されました。商業デザインコース教員でもあった石田氏によると、作品展では「日本の伝統」をテーマに、学生たちから募った30点近いグラフィックデザイン作品が紹介されました。

 B1サイズ(723mm×1030mm)のパネルに、ポスターカラーで書き上げた原画が展示されました。作品の発送にあたっては、海外教育研修委員会委員長の橋本春子教授らが英訳した各作品の紹介文が添えられました。

 商業デザインコースの学生たちは研修には参加しませんでしたが、職員として同行した太田勝久さん(春日井市)は、「現地の有力新聞にも掲載されるなど、東邦短大の名前をPRするいい機会になった」と話しています。

 

成長する学生たち

「研修で学生たちは大きく成長した」と語る石田名誉教授(愛知東邦大で)

 海外教育研修制度の企画段階からかかわった太田さんによると、商業英語に力を入れた制度をスタートさせるきっかけの一つは、就職受け入れ先である中堅商社からの要請に応えるためでした。ファクシミリや電子メールがオフィス通信の中心となる以前、商社の通信手段は英文テレックスが主力でした。東邦短大でも、中堅商社など企業からは、「専門的なことは理解できなくても、英文内容のポイントを理解し、分類できる社員がほしい」という注文が増えていたそうです。

 UCバークレー校はノーベル賞受賞者だけでも100人以上を輩出している超一流大学ですが、太田さんによると、経営戦略上から、語学研修や観光コースも盛り込んだ夏季セミナーも開いていることから、東邦短大でも同校での実施が決まったそうです。

 学生たちの引率を2度経験した石田氏は、「今のように学生の海外旅行が普通の時代と違って、当時、20歳そこそこの学生たちにとって1か月の研修はものすごい体験でした。帰国後に親たちも参加して開かれた懇親会では、〝子どもの成長ぶりに比べたら30万円、40万円の参加費は安いものです〟と感激する親たちもいましたよ」と感慨深そうでした。

法人広報企画課・中村康生 

 

  この連載をお読みになってのご感想、情報の提供をお待ちしております。 

  法人広報企画課までお寄せください。

  koho@aichi-toho.ac.jp

一覧に戻る

学校法人 東邦学園

〒465-8515
愛知県名古屋市名東区平和が丘三丁目11番地
TEL:052-782-1241(代表)