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TOHO
INTERVIEW

2021.05.17

第69回「江戸時代の大災害ドキュメント」― 被災民たちの「復興」への原動力を読み解く

人間健康学部人間健康学科

西尾 敦史 教授

学部長補佐、地域福祉・地域防災

西尾敦史(にしお・あつし)

 1956年富山県八尾町生まれ。筑波大学第2学群比較文化学類卒。日本社会事業学校専修科卒。1979年から横浜YMCA1983年から横浜市社会福祉協議会に勤務。宇都宮短期大学、沖縄大学、静岡福祉大学をへて2019年から現職。2021年から学部長補佐。

 愛知東邦大学では多様な研究分野を専門とする教員の研究活動を紹介する「東邦学誌」を発行しています。東邦学園短期大学時代から続く研究紀要で年2回発行されています。第491号(2020年)で、民俗学者柳田国男の「青ヶ島環住記」を研究ノートとして執筆した人間健康学部の西尾敦史教授に、取り上げたいきさつなどについてお聞きしました。

 ――「青ヶ島環住記」には、大災害からの復興、という現代にも通じるメッセージが込められていると感じました。

 「青ヶ島還住記」は江戸時代後期、火山の大噴火で故郷を離れざるをえなくなった伊豆諸島最南端の島、青ヶ島の住人や子孫たちが、50年以上かけて再び島への帰還(環住)をなしとげたドキュメントです。災害からの復興を研究テーマに取り上げようと、素材を探していたところ、私自身歴史的な文化・風土にも関心があるので、江戸時代の災害を描いたこの作品に非常にひかれました。福島原発の問題で故郷を離れざるをえない人々が大勢いらっしゃる現状も意識にあったかもしれません。江戸時代の被災者たちが度重なる困難にもかかわらず、故郷に帰ろうと志し、復興を遂げた原動力がどこにあったのかを見つけてみたいと考えました。そこに私の研究テーマである地域福祉・地域防災の原点があるのでは、と感じました。

――福祉・防災研究にはどのような視点で臨んでいますか。

 社会科学では、人間を生物科学的な面からではなく、社会の中での個人、環境の中での個人として捉えます。福祉は社会と個人の関係から生じる問題に介入していきます。問題解決のために、社会・環境を変えたり、逆に個人が社会に適合したりしなければならない場合、それをサポートするのが福祉であるといえるでしょう。福祉には幸福という意味があります。幸福を測る指標には、「健康」「経済」「関係性」という3つの面があります。幸福を失ったとき、あるいは失いそうなとき、どのようにリカバーさせていくのか。それが福祉研究といえます。

防災研究では地域コミュニティーの力を高め、防災力を強くする方法を考えます。災害が発生すれば健康、財産、仕事を失います。「孤立」も発生します。そういった事態を予防・回復して、人間らしい生活ができる環境をつくり出す研究ともいえるでしょう。

――福祉・防災を研究テーマにしたのはどうしてですか。

 就職先の横浜YMCAに室内プールがあり、近くにあった盲学校の視覚障害児を対象にした水泳教室の担当になりました。それまで福祉を学んだことがなかったのですが、子どもたちをキャンプに連れて行きたくて資金を稼ごうとバザーを企画したりするうちに、「福祉って面白そうだな」と思うようになりました。はじめから福祉を志したわけではなく偶然出会った結果、のめり込んだという感じです。

――研究を続けてきてよかったことは。

 地域団体と一体となって実践活動ができることです。現場の皆さんは一生懸命に活動されていますが、もう少し客観的、俯瞰的に見ていくことも研究者の重要な役割。そういう視点を加えることで実践活動がよりよい方向に進んでいく手応えのようなものがあります。机上ではなく、今、動いている地域福祉、地域防災に関わっていけることに喜びを感じます。

――研究対象として興味のあることは。

 多すぎて困っています(笑)。「災害遺構」という、災害によって破壊されたり損傷を受けたりした構造物を保存して公開していくという動きがあり、まとめていきたいと考えています。地域での居場所づくりといったものにも一貫して関心があり、この10年くらいの潮流ですが、「子ども食堂」の全国的な広がりに注目しています。子どもの居場所づくりの新しいかたちですね。「液体ミルク」をご存知でしょうか。缶を開ければすぐに乳児に飲ませられるミルクです。社会的に問題になっている「育児の孤立」からの解放、という福祉的な面で注目しています。

――福祉や防災の学びを通じて学生たちに伝えたいことはなんですか。

 学習では知識を得るだけでなく体験することも重要です。自分の活動が誰かの役に立っていると感じることは、かけがえのない経験となります。自分の働きかけで、人に喜んでもらい、自分も喜びを感じる、何かを得る。自己尊重感・自己効用感を高められる機会をできるだけ作ってあげたいですね。たとえば、ゼミで災害ボランティアを行ったり、地域で子どもたちの学習支援や食堂などができないかなと考えています。

――人間健康学部だからこそ学べる魅力もありそうですね。

 人間健康学部では、教職、スポーツトレーナー、スポーツ指導者、心理、地域防災といった多様な学びができ、ひとつの専門を深めることよりも幅広く学べます。これからは専門だけでなく領域を越えた学びが重要になっていきます。心理学の知識があればスポーツ指導にも役立つし、災害支援でも心のケアに必要ですから。

 人間の健康には、「からだの健康」「こころの健康」と、もう一つ「社会的な健康」が挙げられます。人間と社会との関係性の健康と、社会自体・環境自体も健康である必要があります。平時だけでなく災害時にあっても社会の健康を維持して高めていくためにはどうしたらいいか。これが福祉・防災研究の究極の目標です。こういった「健康」という価値観は今後ますます重要になり、人間健康学部での学びの魅力も高まっていくでしょう。

「『青ヶ島環住記』ノート~柳田国男に学ぶ復興論」は下記URLから閲覧できます。

http://id.nii.ac.jp/1532/00000555/

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