検 索

寄 付

TOHO
INTERVIEW

2021.10.26

第74回 働き方の未来を広げるギグエコノミー ネットを通じた単発ワーク

経営学部地域ビジネス学科

寺島 雅隆 准教授

寺島雅隆(てらしま・まさたか)

  1964年生まれ。中京大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。

主著に『起業家育成論』(唯学書房)、『障害者の経営学―雇用から起業へ』(三恵社)など。

 今や街中でみかけるフードデリバリーの配達員。外出しなくても手軽にお店の味が楽しめると好評です。経営学部の寺島准教授はUber Eatsをはじめとした「ギグエコノミー」に関心を寄せ、東邦プロジェクトで学生たちと実践・分析を始めました。

 ――ギグエコノミーとは。

インターネットを介して請け負う単発の仕事を意味します。ジャズやロックのミュージシャンたちのその場限りのセッション、即興演奏をギグ(Gig)と呼んだことが語源です。2000年くらいからアメリカでIT技術の発達とともに芽吹き、今ではフードデリバリーをはじめ、デザイン制作、コンテンツ制作、配車サービス、便利屋サービスなど、様々な分野に広がっています。

 ――急速な浸透の原因は。

 企業側からすれば、人件費や人材育成のコストが節約でき、即戦力として最適な人材活用ができます。働く側にとっては、プライベートの時間を有効に使いたい人が増え、特定の組織に縛られずに自由に柔軟に働き方を希望する人が増えてきたことが要因に挙げられます。

勤めていれば望まない仕事もあるでしょうが、ギグエコノミーであれば自分の得意なスキルを存分に活かせることも大きな魅力でしょう。また、近年のコロナ禍による失業や収入の減少により、ギグエコノミーに向かわざるを得ない状況であったことも大きな要因といえます。

 ――ギグエコノミーに注目されたきっかけは。

 障害者に適した労働形態だと感じたからです。私は2015年に脳出血から身体障害者となってから障害者に関する研究も進めています。障害者はやはり健常者に比べて労働環境が狭まり、雇用、起業の面で不利です。その点、ギグエコノミーではパソコンやスマホがあれば、翻訳、デザイン、ホームページ作成などのクラウドワークスのように、インターネットを通じて障害者が健常者と同じ土俵で戦うことができ、障害者雇用・起業といった面で大きな可能性が広がっています。

 ――東邦プロジェクトでもギグエコノミーを取り上げていますね

 実際に学生たちにギグエコノミーを体験してもらい、ギグエコノミーの可能性を探っていきたいと考えています。一般の企業への就職だけでなく、いろいろな就業形態を経験しておくのは職業選択の幅を広げることに繋がります。既に挑戦して成果を挙げている学生もいますよ。

 ――どんな挑戦がありましたか。

 ビットコイン(仮想通貨)のマイニング(掘り起こし)で、2日間で1万円ほど収入を得た学生がいます。作業はパソコンを作動させておくだけ。費用はパソコンの電気代だけです。このような在学生がいることに驚きました。歩き回るだけでポイントが貰えて、溜まると現金や商品と交換してくれるというアプリに登録している学生もいます。立ち寄った場所や店のマーケティングに活用されてその報酬としてポイントを受け取るわけです。不満買取センターに不満を書き込んで報酬を得ている学生もいます。飲食店の料理が美味しくないとか、あそこの美容院は対応に問題があるとか、ありとあらゆる不満を集めてマーケティングに活用しているサイトがあるんです。

――今の時代、いろいろな仕事があるんですね。

 実際に職業とするかは別にして、このギグエコノミー体験を通してさまざまな働き方や稼ぎ方があることに気付いてほしいし、働き方や稼ぎ方を自分で考え出してほしい。どうやって儲ける仕組みを作り上げるかを考えることはまさに経営学の勉強ですから。

――専門の障害者に関する研究では昨年『障害者の経営学―雇用から起業へ』を刊行されました。

 障害者は、雇用ではどうしても収入が抑えられてしまうので、パソコン等のITを活用した起業を勧めることがテーマでした。実際に障害を不利とせず起業に成功した障害者の例も挙げています。活躍している障害者の姿を紹介することで、全ての障害者を「応援する」ことができれば、という思いで書きました。

 ――現在、続篇を執筆中と伺っています。

 前著で取り上げた、起業して活躍している障害者というのは、障害者全体からみれば極めて少数です。現実には社会保障や社会福祉に依存して生活しているケースがほとんどです。こうした大多数の障害者が生きる上で、どのような価値があるのかを書きたい。十分な収入もなく、起業もできず、社会福祉に頼らざるを得ない大多数の障害者を「肯定する」書としたいと考えています。人は誰でも障害をもつ可能性があります。しかし障害者にとって便利だったり、豊かであったりする社会は、健常者にとっても便利で豊かであるはずです。社会はなぜ弱者を救済しなければならないかを、政治・経済・社会・歴史的に俯瞰し、問いかけたいと考えています。

学校法人 東邦学園

〒465-8515
愛知県名古屋市名東区平和が丘三丁目11番地
TEL:052-782-1241(代表)