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INTERVIEW

2021.12.21

第77回 子どもの才能を最大限に伸ばしたい 手指を使う遊びと脳の発達の研究

人間健康学部人間健康学科

橘 廣 教授

橘 廣(たちばな・ひろ)

徳島県生まれ。京都府立大学文学部社会福祉学科卒業。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程教育方法学専攻単位取得満期退学。2006年東邦学園大学経営学部教授。2007年愛知東邦大学人間学部教授。2017年より現職。著書に『子どもの手指活動と発達』(三恵社)他。趣味はミュージカル鑑賞。

 将棋の藤井聡太竜王の快進撃が続いています。藤井竜王が3歳頃夢中になった知育玩具「キュボロ」が「頭の良くなるおもちゃ」として一時話題になりました。手指の動きと脳の働きには関係があるのでしょうか。長年、子どもの手指活動と脳の発達の関係に注目してきた人間健康学部の橘廣教授(教育心理学)にお話を伺いました。

 ――手指をよく使うと頭が良くなるって本当ですか。

脳の働きを良くするには脳の神経細胞間の適切な情報伝達を活発にする必要があります。人間の脳の神経細胞は生まれた時にはほぼ作り終えられていますが、神経細胞同士のつながりがほとんどありません。つなぎ目の役割をする「シナプス」の数をできるだけ増やすことが重要です。シナプスが多いほど脳の神経細胞の神経回路が多くなり、情報伝達が活発化して、「頭が良い」といわれる状態になるんです。

 ――シナプスを増やすには。

 シナプスは五感からの適切な刺激で増えていきますが、考えながら手指を使う活動が効果的であると最近の脳科学研究で認められています。シナプスの数は出生直後から増え始めて、3歳頃にシナプスの密度がピークを迎え、5歳くらいまで急激な発達がみられます。この時期に、考えながら手指を使う遊びをたくさんすると脳の発達に効果があると思います。

 ――どんな遊びが適していますか。

 どの順番で(時間的)、どの場所にどんな形を作り上げるか(空間的)を頭に描きながら工夫して楽しめる遊びが適しています。例えば、組み立て玩具、折り紙、手芸、木工作、楽器演奏など。「ずいずいずっころばし」など歌ったり喋ったりしながら手指を動かす手遊びも脳を活性化させます。遊びではありませんが、料理は切る、剥(む)く、混ぜるなど、道具を使用して様々な工程があって最高ですね。

 ――藤井竜王の「キュボロ」は。

 ビー玉が通る道を積み木で組み合わせることで、空間的時間的に高次な思考と手指操作活動が必要となり、脳の活性化にとても効果的だと思います。4歳以上を対象にした玩具なのに3歳で熱中したのは、やはり際立った才能があるのでしょうね。

 ――脳の発達に関心をもったきっかけは。                                                                          

小学1年の時にキュリー夫人の本を読み、「どの人もそれぞれ才能を持っている。その才能を生かして社会に貢献しなければならない」という言葉に感銘を受けました。キュリー夫人の言葉はずっと心に残っていて、人の才能を生かすために脳の発達を最大限にする教育方法を考え出すという現在の研究テーマは、その言葉が原点になっていると思っています。

 ――はじめは右利き・左利きの研究をされていたとか。                      

利き手がいつどのように決まって、左右の大脳半球の発達や個性に影響するのか知りたくて、大脳半球優位性(ラテラリティ)の研究を始めました。4か月児の集団健診、保育園や幼稚園での調査、産婦人科医との共同研究などを通して、どちらの手を多く使うかよりも、細かい動きとそれを支える動きをどちらの手で行っているかで、発達初期に利き手がわかるという結果がでました。

――そこから手指遊びと脳の発達の研究に発展した。

大脳半球の働きを研究するうちに、乳幼児の頃から創造的な手指活動を活発にして、脳の活動を高めることは、その子どもが持っている才能を最大限に生かせる教育方法として有効ではないかと考えるようになりました。その教育方法の一つとして手遊びをはじめとした手指活動、知育玩具の研究に進みました。手指を使って、考えながら複数のモノを組み合わせたり、調整したりしながら扱う操作性の高い玩具や道具を、一人ひとりの発達に合わせて効果的に使用する研究を続けています。

 ――最近の研究の成果は。

近赤外線分光法(NIRS)を用いた研究です。生後5か月の乳児も、大学生を対象とした結果と同様に、操作性の高い道具を使用したほうが、手指で直接作業するよりも、脳の最も高次な働きをする前頭前野の血液量が増加するという結果が得られました。発達に合わせて道具を効果的に使用することが、乳児の脳活動の活性化につながることが示されました。

 ――利き手の研究では赤ちゃんだったお嬢さんと「共同研究」したと伺いました。

利き手が決まる原因や、大脳半球のどちらがより働くかがどのように決まっていくのかを研究したくて、生まれたばかりの長女の観察を子育てしながら続けました。それまでも乳幼児の行動をビデオ観察した研究はありましたが、特定のテーマでひとりの子どもを長期間観察した研究は当時珍しかったので、学会でも高評価をいただきました。

 ――今でも共同で研究を進めていらっしゃるそうですね。

長女は私と同じ教育心理学研究の道に進みました。いつもがんばって協力してくれて、本格的な研究の基礎になるデータを提供してくれたり、今も研究以外も含めて助けてもらったりしています。振り返れば生まれた時からずっと「共同研究」してくれているんですね。感謝でいっぱいです。

 

 

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