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TOHO
INTERVIEW

2022.03.24

第79回 アメリカの社会・文化研究を通して文学作品を読み解く

経営学部国際ビジネス学科

佐々木 裕美 教授

佐々木裕美(ささき・ ゆうみ)
愛知県瀬戸市出身。南山大学外国語学部英米学科卒業。愛知淑徳大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2015年から現職。趣味は家庭菜園とボクシングを少々。

佐々木教授はアメリカの社会・文化が文学にどう結実しているか、主にノーベル文学賞作家フォークナーの作品を通して研究しています。アメリカ文学の魅力や、授業で学生に伝えたいことなどを話していただきました。

――そもそも「アメリカ」に興味を抱いたきっかけは。
中学生の時、アメリカ留学から帰国した先輩がいて、自分も行ってみたいと憧れました。AFS(アメリカン・フィールド・サービス)という国際交流団体の交換留学生に応募して、高校生の時にサウスダコタ州にホームステイしたのが始まりです。

――留学時代の想い出は。
 1年の留学生活を終えたときに、全米に散らばっていたAFSの留学生5000人がバスでワシントンDCに集められてホワイトハウスに招かれたことです。当時のフォード大統領がホワイトハウスから登場して留学生のためにスピーチしてくれて、友人の中には握手した人たちもいたりして特別な体験をさせていただきました。今では考えられないですね。

――帰国後もアメリカへの興味は続いた。
 大学の担当教官がアメリカ政治文化の研究者であったことと、アメリカでのホストファミリーが弁護士や州の議員といった政治一家だった影響もあり、アメリカ政治文化の研究に進みました。偶然の人との出会いが生涯の研究テーマになりました。その先生は大学在学中はもちろん、卒業後も仲間6人とずっと月1回の勉強会を持って下さいました。38年間も続いたんですよ。

――大学院に進んだきっかけは。
 大学を卒業して就職・結婚・子育てをしながらも、やっぱりきちんと勉強したいという気持ちを捨てきれませんでした。愛知淑徳大学が大学院を開設するという新聞広告をたまたま目にし、教授陣の豪華ラインナップに惹かれてアメリカ文学研究に挑戦してみようと決心しました。これもたまたまですが、指導教授の中にウィリアム・フォークナー研究の大家がいらっしゃって、その先生に惹かれてフォークナー研究に進みました。
――研究生活はスムーズでしたか。
 それまで特に文学少女だったわけでもなく、アメリカの社会・文化しかやってこなかったので、文学プロパーの論文というよりは、文学作品の背景となるアメリカの社会文化を研究テーマにしてきました。人種・階級・地域・貧富・ジェンダーといった問題です。

――アメリカ文学の魅力とは。
 作品のなかに、作家や時代の背景やバックグラウンドが色濃くでてくるところでしょうか。作家の出身地、階級、どこからの移民か、などによって、作風が全く異なってきます。南部出身の作家にとっては人種問題のあることが当たり前なのに、北部出身の作家の作品にはあまりないとか。もちろん時代にもよりますが。フォークナーも南部出身で、人種問題や階級問題(プアホワイト)が当たり前にある社会の作家です。黒人に対するリンチ事件も題材にしていますが、同時に階級に対する白人の苛立ちすら描き出されています。

――複雑な社会・文化があってこそアメリカ独自の文学が生まれた。
私はアメリカ社会文化研究というレンズを通して文学を見ているので、アメリカ社会文化の、上辺だけでない根本を探るツールとして文学作品はとても有用と考えています。統計や数字、公式記録には残されていない、様々な事実や真実が文学作品のなかに残されていることもアメリカ文学の魅力ではないでしょうか。特に人種差別の大きかった南部の作品にはそういった傾向が顕著に出ています。今読むと、「えっ、そんな時代があったの?そんなところ、とても住めない!」と驚くようなことばかりです。

――フォークナーに惹かれるのは。
 フォークナーの作品は、ヨクナパトウファ・サーガと呼ばれる架空の地域を舞台にしていて、その狭い地域を全世界、全宇宙と考えて暮らしている人々を描いています。フォークナーは「自分は封筒に貼られた切手ほどの狭い場所を描いている」と表現しています。因習や狭い価値観を当然と感じている人物たちの悲喜劇を物語ることで、人間の本質を顕わにするところが魅力と感じます。
 それと、フォークナーの地元の南部って日本に似ているような気がします。南北戦争当時圧倒的な力を持っていた北軍や、第二次世界大戦 時のアメリカ軍。うすうす負けると分かっていた相手に向かっていった南部と、かつての日本が二重写しになるのかもしれません。

――授業のなかで学生たちに伝えたいことは。
 留学生も授業を受けてくれていますが、国によって考え方があまりに違うので驚くこともしばしばです。でも違っていて当然なんです。文化は、自分が生まれた社会で生活する中で、いつのまにか身についていくものです。自分が生まれ育った社会や文化を、誰もが当然のものとして受け取っている。でもまったく異なった社会や文化で暮らしている人も大勢いる。それを「間違ったもの」としてではなく、自分とは「違うもの」として受け止めることが大切です。
 自分が当たり前と思っていることが他の人には当たり前ではないことに気付くことができれば、「あの人、間違っているな」ではなく、「自分とは違ったやり方をしているな」と捉えられ、さまざまな交流が生まれます。アメリカの社会や文化を歴史的に辿ることで自分たちとは異なった、さまざまな価値観があることを理解してほしいです。
 フォークナー作品に登場する、狭い価値観のなかで生きた人物たちも、そのことに気付いていればもっと幸せになれたかもしれませんね。それが簡単にできないのが人間なんですけどね。(笑)

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