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TOHO
INTERVIEW

2022.04.18

第80回 日本の学ぶべきはスウェーデンの「育成力」

経営学部長・国際ビジネス学科長

田村 豊 教授

田村 豊(たむら・ゆたか)

静岡県清水市生まれ。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得、経営学博士(明治大学)。2001年東邦学園大学経営学部助教授、2009年愛知東邦大学経営学部教授。2021年から現職。趣味はクラシック音楽鑑賞。特に独墺系が好き。

北欧の国、スウェーデンは高福祉と、高い経済成長・国際競争力を両立させ、世界から「スウェーデンモデル」として賞賛されています。巨大財政赤字・競争力低下に悩む日本はスウェーデンから何を学ぶべきでしょうか。スウェーデンに留学経験もあり、スウェーデンの経済・社会を研究テーマにしている田村教授に聞きました。

――スウェーデンはどんな社会ですか。
 日本の1.2倍という広い国土に、やっと1000万人程度の人口なので、アクティブでないと食べていけない、国民みんなが力を合わせなければやっていけない国といえます。ですから無駄をつくらず、人もモノも目いっぱい使おうという合理的指向が強い。労使関係などでも利害が異なる人々も話し合って困難を乗り越えようという協調性重視、こうした考え方が国全体に浸透しています。その考え方をもとに、誰もが能力いっぱいに働けるよう、個人や組織の能力を最大限発揮させる社会づくりをめざし成果をあげてきたと思います。

――どうやって能力を最大限に発揮させるのでしょうか。
 最大のポイントは社会全体が多様化に非常に対応できていることです。老若男女、ハンディのある人、一人ひとりにきめ細かく対応することで、その人が能力を最大に発揮できるように導きます。そうして一人当たりの生産性を高めて、一人ひとりを豊かに、国全体も豊かにしようという考え方ですね。

――教育制度も寄与していると聞きました。
 全ての子どもが小人数教育を受けています。金持ちの子も、そうでない子も、同じ高度な教育を受けることができます。日本では金持ちの子どもはお金をかけた教育を受けられ、結果社会的な地位を得ることができますが、そうでない子どもはそれが難しい。所得格差と教育格差が常に継続してしまう。スウェーデン社会はそれを断ち切った。公平、平等な教育という土台を社会が構築し、そこで育成して芽生えさせるという構造を作り上げました。次世代の育成が非常によくできています。

――失敗しても再チャレンジできる社会ともいわれている。
 個人であれ、企業であれ失敗はおこります。失業や倒産は当然ある。スウェーデンでは業績の悪い企業の倒産を国が助けない。競争してだめだったら、それで切り捨てます。企業の倒産が多いので失業も結構ある。ですが、再教育(リカレント教育)で育成して、より効率のよい業態への転換、労働力の切り替えを推進しています。結果、ITなど成長産業に資本・労働力を傾けられ、高い国際競争力を維持できるようになったのです。スクラップ・アンド・ビルドの仕組みを整え、変化に強い国づくりをしたことが成長の鍵です。

――日本はそこがうまくいっていない。
 高度成長時代の成功体験、これまでの日本のやり方が一番だ、という考えから抜け出せない、変化にうまく対応できない国になってしまいました。産業構造が変化して明らかに新しい産業が芽吹いてきているのにそれに対応できていない。既存産業から成長産業への労働力の切り替えの遅れが一番の問題点です。変化にうまく対応でき、長く続く社会、サスティナブルな社会にならなければ。

――日本がスウェーデンから学ぶ一番のポイントは。
 これまで述べてきたように「育成力」と思います。子どもの育成、労働力の育成、企業の育成、産業の育成。スウェーデンの今日の成功を解く鍵は、教育と労働の関連性にあると考えています。人も企業も産業も、うまく行かなくなったら、一旦リセットして、でも切り捨てるのではなく、育成して新たな発展に繋げる。日本は変化に強くなるためにも育成を重視した国づくりを目指す必要があります。

――先生は中小企業の育成を後押しする研究も進められているそうですが。
最近の日本の中小企業政策では、中小企業は潰れてもかまわない、再編成を進めて効率化しようという考え方も出ています。わたしはそれには疑問を持っていて企業的にみると弱い立場に立つ中小企業をどう救済できるか、その方策を研究しています。

――そこにもスウェーデン研究が生かされている。
 どうやって中小企業に援助と支援をしたら生き残れるか、中小企業が継続的に成長できるモデルが形成されない限りはお金をいくらつぎ込んでも無駄です。潰してそのままではなくて、そこから次の芽を育む投資・支援を国ができないか。中小企業支援のなかに育成支援というコンセプトを入れ込めないか、「スウェーデン・モデル」を使いながら検証しようと考えています。

――本学にも取り入れたいスウェーデンの授業方法があるとか。
スウェーデンの大学では集中講義が中心です。テキストが山のように渡され、課題についてのレポートを書かされます。自分で研究対象を見つけ、電話をかけ、インタビューのアポをとり、レポートを書く。それについて何度も徹底的にディスカッションする。日本のように大教室で講義を受けるなんて最初の2時間くらい。そもそも授業の開始時間も終了時間も決まりがない。本学でも導入している「プロジェクト型授業」が徹底されています。

――24時間いつでも授業?
いつでもどこでもグループで作業や討論です。しかも複数の課題が平行して出されるので、それを処理する能力がすごく養われる。こんな授業方法を本学にも取り入れたらと考えています。

――最後に、経営学の授業を通して学生たちに感じてほしいことは。
変化に対応してどう生き残っていくか。経営学では大事なテーマです。企業だけでなく、組織は周囲や内部の社会と関わりを持っていく中で、常に変化に対応していかなければ存続できません。まさにスウェーデンの今日の成功のカギとなったテーマです。変化に対応して組織を持続できるような発想を経営学で学んでほしい。そういう勉強をやっているんだと感じてくれればうれしいですね。

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