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TOHO
INTERVIEW

2022.06.14

第81回 困難に適応するしなやかさ「レジリエンス」に注目

教育学部長

堀 篤実 教授

堀 篤実(ほり・あつみ)
岐阜県羽島市生まれ。金城学院大学大学院人間生活学研究科博士修了、博士(学術)。博士(医学)(岐阜大学)。2007年愛知東邦大学人間学部准教授、2011年愛知東邦大学人間学部教授、2014年愛知東邦大学教育学部教授。2020年から現職。趣味は体を動かすこと。週末には家族で金華山に登っています。

堀教授は臨床心理学を専攻し、カウンセラーの経験から、発達障害や発達障害傾向のある学生の就業支援を研究してきました。最近では困難や逆境に折れないしなやかさ、「レジリエンス」に注目しています。

――そもそも発達障害とは
 発達の初期段階で、脳に正常に機能しない部分が出てくる障害のことです。全般的に何かができないというより、発達に凸凹があって、他の子どもたちと同じように発達する部分もあれば、ゆっくりとしか発達しない部分もあります。コミュニケーション能力とか想像力・応用力、集中する能力、あるいは限られた分野の計算や読み書きの能力といった部分です。最近では発達障害は「障害」というよりも、一つの「特性」「個性」であると認識されてきています。

――大学生にも多いそうですね
 ここ数年ですが、本学でも「発達障害と診断されている」と申告してくる学生を目にするようになりました。発達障害は治るものではないですが、大学生くらいの年齢になると、自分の発達障害を理解して上手に付き合ったり、相談やサポートの相手や方法を見つけられたりできるようになります。これまで周囲から適切なサポートを受けられたり、周りと付き合うことのできたりした人が大学生になっている、という印象です。

――発達障害の学生に常々助言していることがあるとか
 無理をしないでと言っています。発達障害と診断されていても、無理に周囲にカミングアウトする必要はないと思っています。必要な時に必要な人にだけ伝えればいいことです。就職でも企業の障害者枠での応募に抵抗感を持つ学生もいますが、決してわるい方法ではないよ、無理しないで長く勤められる一つの方法と考えてみれば、とアドバイスしています。

――自分は発達障害?と思ったら
 自覚症状はあるが、発達障害の診断を受けていないまま大学生になったというケースも少なくありません。そういった学生には一度診断を受けてみたらと勧めますが、この年齢までなんとかやってこられたのだから、とためらうことも多い。大学も徐々にですが受け入れ態勢を整えてきているので、まずは気軽に学生相談室を訪ねてほしい。発達障害に限らず、生きづらさや悩みがあったら、自分自身の考えを整理する上でも、日常との利害関係のない学生相談室という場を利用してほしいと思います。

――発達障害傾向の学生の支援を研究された
 発達障害の傾向は見られるけれど、医師からの診断はついていない学生が学年で何人かいたので、そういった学生をスクリーニング(選別)できるような、指標を作れたらと、5,6年前から元人間健康学部の肥田幸子教授と研究を始めました。「診断」は基本的に医師にしかできないので、診断とまではいかないけれど、発達障害の傾向が少しあるとか、日常生活で困っていることをアンケート形式で答えてもらい、発達障害の程度の指標を作り、その指標を基に支援できないかと考えました。

――発達障害やその傾向のある人の弱点は「見通し力」と指摘している
 「見通し力」とは過去の経験を生かして、将来を見据えて、現在どのように行動すればいいかという、判断力のことです。発達障害の人は基本的に過去の経験は生かせません。過去の失敗をもとに次はこうすればいいんだなと想像することが難しい、「今」しか見えていないとも言えるでしょう。「見通し力」を測ることができれば発達障害の指標を作れるのではと考えました。

――「見通し力」アンケートで発達障害傾向が見られた学生への支援は
アンケートの内容は本人が了承すれば所属ゼミの先生にも共有してもらい、発達障害傾向のある学生に対しては配慮をお願いしています。周囲とうまくいかなかったり、見通し力に問題があるなと感じた場合には、学生相談室に行くよう促してくれるようにもお願いしています。

――発達障害やその傾向のある学生への就業支援研究に進展した
 「就業力」を測るアンケートを作成して、一昨年学会誌に発表しました。それを学生に回答してもらい、今後就業支援に役立てようと考えています。具体的には学生相談室とともに、ハローワークや就労支援施設と連携して就労支援を始めていますが、まだまだ研究課題は山積みです。

――心理学の研究に進まれたきっかけは
 もともとは心理学にはほとんど興味がありませんでした。高校時代はキラキラのキャンパス生活を夢見て勉強一筋。ところが、いざ大学にはいったら大きなギャップに不登校になってしまいました。生きるのが苦しくて、こころの問題を扱う心理学に興味をもつようになり、自分が楽に生きられる方法をみつけようとしたことが心理学へのきっかけになりました。大学院で臨床心理士の資格をとり、研究を続けながら、カウンセラーも務めました。今は教員の仕事で手一杯ですが、今後も学生と学生相談室やクリニックとの橋渡しの役目ができればなあと、考えています。

――最近はレジリエンス(resilience)に注目されている
 レジリエンスは、もともとは「回復力」という意味で、困難に遭遇した時に、折れたり、壊れたりせず、しなやかに適応できるような力のことです。私のところに相談に来る学生のなかには、困難に出会って、心をすり減らしてしまう学生もいれば、いい意味で要領よく立ち回っていく学生もいます。どこに違いがあるのかなと考えた時に、このレジリエンスの有無が関係しているのではと考えました。

――学生のレジリエンスを高める研究も始めた
 レジリエンスは、パソコンやスマホなどを通した体験ではなく、自然や対人関係といった本物の体験を多く持った子どもたちに高いと言われています。幼少の頃から豊かな自然体験を持っていてレジリエンスが高い学生もいますが、そうでない学生も今から自然体験を重ねたり、表現力を磨いて対人関係を豊かにできたりすれば、レジリエンスも高まるのではないかと考え、研究を始めようと準備しています。本学の独自科目である「総合表現技術」では、表現の専門家である、劇団うりんこの劇団員の方を非常勤講師にお招きして表現力を養うことや、平和公園や愛・地球博記念公園などの自然豊かな場所でゼミ活動を行うことと、レジリエンスの関連を明らかにしていきたいと思っています。

――最後に、学生たちに伝えていきたいことは
 人は一生「発達」「成長」し続けます。大学生も子どもたちに較べれば程度は少ないかもしれないけれど「発達」「成長」できます。学生たちには「もう自分は限界だ」とか「もう遅い」と考えてはいけないよ、自分の強みに気づき、魅力を増やすことができるんだよ、始めるのに遅すぎることはないよ、と今もこれからもずっと伝えていきたいですね。

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