検 索

寄 付

TOHO
INTERVIEW

2022.09.27

第84回「魔女の宅急便」で人間学を考える

人間健康学部人間健康学科

丸岡 利則 教授

丸岡 利則(まるおか としのり)

京都府出身。大阪府摂津市福祉事務所で12年のケースワーカーを経験後、大阪府立大学大学院社会福祉学研究科修了(修士・社会福祉学)。関西福祉大学社会福祉学部教授、高知県立大学社会福祉学部教授を経て、2014年愛知東邦大学人間健康学部人間健康学科教授。2018年から2021年まで同学部長。

丸岡教授は専門の社会福祉学の講義のほか、人間学概論では、哲学的人間学を基本にして自分探し、教養、中世史、宗教、絵画などのテーマに加えて、ジブリアニメ「魔女の宅急便」なども取り入れたユニークな講義を展開しています。今回は人間学とサブカルチャーとの関連や、社会福祉の現場への提言などについて話していただきました。

――人間学概論でジブリアニメ「魔女の宅急便」を取り上げています。
人間学は「人間とは何か」を考える学問です。でも「人間とは何か」なんて非常に難しい。簡単には答えられません。そこで、「物語」であったり、「歴史」であったり、「科学技術」であったり、人間の様々な営みを素材に用いて、「人間」や「人生」を考えていこうと試みています。「魔女の宅急便」を素材にしたのは、その試みのひとつで、「人生の秘密」を見せてくれるからです。

――「人生の秘密」とは。
物語で一番大事な個所はクライマックス。そこで人生の「秘密」を見せてくれます。「感動」と言い換えてもいい。魔女のキキは魔法を使えばひとりでやっていけると考え、家を出て街にやってきた。でもその魔法は母親から貰っただけのもので、やがて自力で飛べなくなる。猫のジジとも話ができなくなる。どん底を味わう。でもそこから這い上がろうと努力します。クライマックスでは飛行船に吊り上げられたトンボを救おうと、モップで空を飛べるようになった。自分の力で魔法を取り戻したんです。

――キキは、自分の力で生きていくことが大切、と気づいた。
主人公も観客も人生の秘密のひとつに気づいた。キキが魔法で飛ぶ姿を観て感動するのは観客も人生の秘密に出会えたからです。我々は日々の暮らしのなかで、そんな人生の秘密に出会うことは稀です。誰も知らないし、わからないのです。でもそれに小説や映画のなかでは出会うことができる。物語は人間にとって大事なものは何か、人生で大事なものは何かを教えてくれます。「人間学」そのものです。

――ミステリー調の映画「薔薇の名前」も取り上げている。
中世ヨーロッパを舞台にしたこの映画から、西洋中世、ゴシック建築、修道院の生活、当時の人々への教会の影響力へと話を広めていきました。自我や個人よりも教会を優先しなければならなかった歴史のなかでのひとつの人間の生きざまの一つとして。

――人間学概論を貫くメインテーマは。
人間だけが持つ知的好奇心、これだけは永遠に持ち続けてほしいということ。知的好奇心をもって「面白がって」ほしい。面白いものを面白いと思えるように。きっかけはどんなことでもいいので、そこから次から次へと芋づる式に好奇心を広げていってほしいですね。

――先生にとって人間学と専門の社会福祉学はどこで繋がっていますか。
私にとっては一緒のものです。人間学は人間の原理を扱う。社会福祉学も人間の人生を考える学問なので、やはり人間の原理を探究することが出発点になります。
私の研究テーマは「福祉とは何か」を考察する原理研究です。「人間とは何か」を考察する人間学と繋がっている。物事の本質を探究するという点で同じ地平にあります。

――学会では「社会福祉とは人生相談」と提言していらっしゃる。
今までの研究の総まとめとして昨年の福祉図書文献学会で、分かりやすいように老人ホームを例にとって話をしました。老人ホームは外部から見たら単に「ケア」しているようにしか見えません。体を洗ったり、ご飯を食べさせたり。でも実は老人ホームのような施設(レジデンス)ケアには「ケア」の他に「コントロール」と「アコモデーション」という3つの構成要素から成り立つというのが私の提言です。
「コントロール」は共同生活を維持することです。そのためには入所者一人ひとりに活躍できるような役割を与えることが重要です。認知症や障害ある高齢者であっても工夫しながら裁縫とか大工仕事とか得意分野を活かして。生きる喜びを持てれば共同生活も楽しくなるでしょう。
「アコモデーション」は個別化のことで、一人ひとりに個別に対応することが重要ということです。「今日一緒に散歩しませんか」とか「外の風にあたりませんか」とか、一人ひとりの様子を見ての声掛けが大切と考えています。仕事上だけでなく個人的に話をしてほしい。

――入所者一人ひとりの人生を考える事こそが「人生相談」。
「ケア」「コントロール」「アコモデーション」、3つとも重要です。でも現場の人にはあとのふたつが見えていません。多忙でそこまで手が回らないのが現状でしょう。学問と現実は乖離している、平行線だといわれますが、研究者のひとりとして、現場の人に学問としてのメッセージを届けることが使命と考えています。私が言わなければ本当に「ケア」だけになってしまうからです。

――学問と現場の繋ぎ役を務めている。
忙しいと仕事を深めるという機会がなかなかできないものです。学問上と現場では事情が異なるということは社会福祉だけでなくどんな世界でもあること。私は学問と現実の繋がりを「臨界」と名付けていますが、福祉の現場がより良い場所となるためにも、そういった繋がりを大切にして、現場の人が少しでも今の仕事を深める提言をしていきたいと考えています。

――社会福祉研究を志したきっかけは。
大学ではフランス語を学び、就職した先の大阪府摂津市役所の秘書課ではフランス語も活かせましたが、次に配属された福祉事務所でのケースワーカーの経験がきっかけです。そこで社会福祉に興味を抱き、本格的に学ぼうと大阪府立大学の大学院に入学して研究生活にはいりました。

――学生たちに卒業までに一番やってほしいことは。
たくさん本を読んでほしい。それに尽きます。ジャンルは関係ありません。どこから入ってもいい。ミステリーでもいい。スマホでも読めますが、ぜひ紙の本で読んでほしい。興味をもった箇所に線をひいたりして。

――先生ご自身も読書好きとか。
若い頃からポケットにはいつも文庫本が入っていました。今も家は本が山積みで、いつも家内に怒られています。休日には読んだ本を整理するのが趣味みたいになっています。この整理の仕方が問題です。同じ本が何冊も出てくるし、整理の途中で読書を始めるので、いつまでたっても終わりません(笑)。

学校法人 東邦学園

〒465-8515
愛知県名古屋市名東区平和が丘三丁目11番地
TEL:052-782-1241(代表)