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TOHO
INTERVIEW

2022.11.01

第86回 先人が育んだ「郷土教育」を次代に伝えたい

教育学部子ども発達学科

白井 克尚 准教授

白井 克尚(しらい かつひさ)
愛知県豊川市生まれ。愛知教育大学大学院教育学研究科社会科教育専攻社会科教育専修修了。同県内の小中学校教諭や愛知県埋蔵文化センター等勤務をへて2014年愛知東邦大学教育学部子ども発達学科助教。2015年兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科教育方法学講座修了。博士(学校教育学)。2018年から現職

白井准教授は小中学校教諭や愛知県埋蔵文化センター調査員をした経験から、現在の研究テーマ「郷土教育」に注目するようになりました。当時の思い出や研究者を目指したきっかけ、趣味の演劇で学んだ「対話」の重要性について話しくれました。

――はじめは小中学校の先生をなさっていた。先生を目指したきっかけは?
父が中学校の美術教師、母は短大家政科で教えていて、幼いころから教師という職業に馴染みはありました。決定的だったのは、大学時代に行った小学校での教育実習でした。授業はうまくいかず、とても難しかったのですが、「白井先生、白井先生」と慕って寄ってきてくれる子どもたちがいて、「先生っていいな」と思ったのがきっかけです。

――どんな先生でしたか?
 小学校の教員時代では、生活科や総合的な学習の時間の取り組みが印象に残っています。生活科では地域に根差した取り組みをしようと、担任した小学2年生の児童たちと子ブタを借りて教室や中庭で飼いました。3か月ほど育てて、子どもたちと話し合って返すことにしましたが、お別れの時は皆大号泣でした。総合的な学習の時間では、小学4年生の子どもたちに環境の面にも目を向けてもらおうと、ホタルの幼虫を育てて、地域に流れる川に放流する活動をしました。学外に出てフィールドワークを通じて学ぶ授業が好きでした。
 中学校の教員時代は、社会科教師だけでなく、部活教師(男子バスケットボール部顧問)でした。部員が有力校に進学するほどレベルが高く、練習試合ばかりしていました。このまま部活教師をずっと続けていくんだろうなと思っていました。

――ところが、愛知県埋蔵文化財センターに転勤に。
 第二東名高速道路工事の時期に多くの遺跡を発掘する必要ができ、現職教員の中から、調査員の一人として派遣されました。考古学は門外漢でしたが、新城市・石座神社遺跡(新東名高速道路の設楽原PAあたり)、岡崎市・西牧野遺跡(同岡崎東ICあたり)の発掘調査に参加しました。発掘現場では、地元の作業員さんと仲良くなることが得意でした。ここでも地域の人たちと関わりあいながら、地域の歴史を一緒に考えていくことの面白さを学びました。

――県埋蔵文化センターへの転勤が研究者への方向転換のきっかけになった。
県埋蔵文化センターの調査員時代に、「なぜ社会科教師であった私が発掘調査を行わなければならないのか?」という問題意識を抱いたためです。そうしたときに、過去の教師たちによる「郷土教育」の取り組みに目を向けることになりました。また、私たち現場教員の調査員は考古学の普及・啓発の仕事を期待されていましたが、県埋蔵文化財センターの専門職の先生たちは、発掘調査の報告書をまとめたり、論文を書いたりしていました。その姿を見て「研究」も面白そうだなと感じ、私ももう一度勉強し直そうと考え、大学院に通って博士号を取得しました。

――「郷土教育」は郷土を愛そうという教育ですか。
単なる郷土愛とは違います。確かに戦前にはナショナリズム高揚に繋げようとした「郷土教育」が進められたという面もありました。しかし、戦後の郷土教育は、郷土を科学的・具体的に、体験を通じて学習しよう、地域を見つめ直し、その記録を作文という形で残そうとする教育の在り方に変わりました。身近な郷土を足掛かりにして、地理学・歴史学・考古学といった学問の第一歩を体験的に学ぼうという科学的な教育方法になったといえます。

――郷土教育を通じて子どもたちの意識も変わる。
 身の回りにある身近なものを、暗記ではなく、生きた教材として勉強するので、地域の問題を考えなおしたり、社会参加するきっかけを与えてくれたりする機会になると思います。地域の遺跡や文化財を大切にしよう、保存しよう、有効活用しよう、と考える大人になってくれるのではないでしょうか。だからこそ、本物に見たり触れたりする経験を大切にしてほしいと思います。

――大学教育でも郷土教育を取り入れている。
大学でも社会や生活、総合的な学習の時間の指導法、サービス・ラーニング実習の授業において、フィールドワークや振り返りを重視して取り組んでいます。学生には自分の住む地域をネタに教材づくりしてくるように指導しています。戦後の郷土教育は多くの先達たちによって、フィールドワークと作文を一体として進められてきました。私はその連綿とした教師たちによる取り組みの歴史を、実践や研究を通して次代に受け継いでいきたいと考えています。

――卒業までに学生に学び取ってほしいことは?
「謙虚」に学ぶこと、学びを止めずに学び続けてほしい。学び続けていればきっといいことがあるよと伝えたい。「学ぶ」って面白いじゃないですか。あと、一生懸命学んでいれば、誰かが応援してくれるし、仲間になってくれる人が必ずいます。本学でも教員採用試験の合格者が年々増加していますが、なりたい思いを継続して努力を怠らなければ、いつか希いはかないます。

――趣味は?
 映画や演劇鑑賞です。演劇では、地元のアマチュア劇団に所属し、役者やスタッフとして活動していました。もともと、子どもたちを教えているうちに、「表現」に関心を持つようになったのがきっかけです。授業は「舞台」、教師は演出家でもあって、スタッフでもあって、役者でもある。子どもたちの表現をもっと引き出したい、自分の表現をもっと磨きたいと考えたためです。演劇の基本は「対話」です。教師と子どもとの対話、子ども同士の対話、下校後の子どもと家族の対話。授業をすることで新たな対話が生まれる、そんな授業ができる教師を育てられたら良いと思います。

小学校教員時代

愛知県埋蔵文化センター 調査員時代

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