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TOHO
INTERVIEW

2023.01.24

第89回 女性のキャリア形成を心理学から応援したい

経営学部地域ビジネス学科

吉村 美路 准教授

吉村 美路(よしむら・みち)
 山口県山口市出身。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修了(修士)
中村学園大学栄養科学部フード・マネジメント学科専任講師を経て2019年より現職

ひと昔前は「寿退社」という言葉のように、女性は結婚と共に退職し、家庭に入ることが一般的でした。しかし、今日では結婚後も仕事を続け、女性の管理職もあたりまえになりました。吉村准教授は社会心理学の視点から、キャリアに関する女性の意識や、それを取り巻く社会の意識の変化を研究しています。女性の仕事に関する「価値観」はどのように変化してきたのか聴きました。

――結婚後も仕事を続ける女性が増えています。女性のキャリア意識が変化していますね。
 様々な生き方を選択していいのだ、という意識が広がっていると感じます。学校を出て就職し、結婚して子供を産み、家庭に入る…というかつての王道が薄れつつあるのでは。
国立社会保障・人口問題研究所が、1987年から数年毎に収集している調査データ(2021)によると、女性の理想ライフコースの中で、育児期も就業を継続したい「両立コース」が徐々にポイントを上げてきました。2021年には、育児がひと段落したら再就職を望む「再就職コース」を抜き、初めて最多となる34%となっています。人生の自由度が増えるのは、個々人の生き方を尊重できる社会とも言え、幸福度は上がると考えられます。
一方で実際既婚女性がキャリアを継続できているのかは、出産・育児との両立の難しさに課題があり、なかなか思うように進んでいないのが現状です。

――女性のキャリア形成を推進するには何が必要でしょうか。
 国の政策や組織内制度、社会サービスや経済状況等とあわせて、男女双方に意識改革の必要が求められています。近年は街を歩いていて、特に若い世代で男性が積極的に育児に関わる様子が見られるようになりました。これはとてもポジティブな変化だと思います。「手伝う」という意識が「当たり前」の意識に転換すると、女性の心にも安心が生まれ、これなら就業継続できるかもしれない、という気持ちに繋がるかもしれませんね。

――男女の役割意識も変えなければならないですね。
 夫婦間の性別役割認識はイメージしやすいかもしれません。同様に課題として専門家の間で取り上げられやすいのが、就業先で経験する無意識の男女格差です。同じ立場にいても事務的な業務は女性、クリエイティブな業務は男性に振られやすい結果や、同じように強気で交渉しても、男性の場合はほとんどマイナスにはならない一方で、女性は評価が下がりやすいという調査結果も示されています。いわゆるステレオタイプの社会的刷り込みが無意識に反映されてしまっているケースですが、人の価値観を変えるのは一筋縄ではいかないなと思っています。このような経験を積み重ねることが、出産を機会とした離職に影響するのではと考えられています。

――専門の社会心理学は個人というより集団の心理に焦点を当てる分野。先生は女性のキャリア形成や性別役割認識を社会心理学の面から研究されていますね。
 女性が就業を継続できるケースについて、心理学的な視点から調査を行っています。パートナーの気質やパートナーシップのあり方、女性自身が就業に対してどのような印象を持っているのか等を調査し、就業形態毎の相違を分析しています。
 これまでの調査で印象的だったのは、自身のキャリア納得感に関する質問で、離職群では「離職しなければよかった」と回答した方が最も多く、正規職継続群の回答では「続けてよかった」が最も多い結果を示したことです。仮に悩んだ末の離職であったとしても、後悔するケースが多いことが示されています。性別役割認識においては、どうしても男女間や世代間で役割認識の相違が生じがちです。自分の視点から主張するではなく、相手の状況も考えながら、お互い歩み寄りができれば、ほどよい妥協点が見つかるかもしれませんね。

――学生時代の学びが今の研究にも繋がっているとか。
 大学では心理学を学び、修士課程ではコミュニケーション学を学びました。大学院で私が所属していたのは、異文化コミュニケーション研究科の中でも「環境コミュニケーション」という分野になります。理解すべき “異文化”を異国の人というひとつの枠だけでなく、障害のある方や動植物など、同じ世界の中の自分とは違う存在、という意味で「異文化」をより広義に捉えた分野です。
ここで得た大きな学びは「自分が見えている世界が真実ではないかもしれない」という不確実さです。同じ日本に生まれても、五体満足で生まれ、人並みの環境で育った人間から見た世界と、障害を持ち過酷な家庭環境で生まれ育った人間から見た世界は、物理的には同じ世界でも、見える世界という意味では異なるでしょう。ここでの学びは現在の研究に繋がっており、他者をいかに理解し、その学びをどのように課題解決に繋げるかを目指しています。

――学生たちに大学生活で得てほしいことは。
 自分なりの人生の方位磁針を持ってもらいたいと思います。何かに迷ったとき、決定をするための拠り所となるような道標のことです。例えば「迷ったときは人生に学びの多い道を選ぶ」「自分自身が尊敬できる自分でいる」など、選択しなければならない時の行動指針です。暗中模索の人生は心もとなく、苦しいものになりがちです。心理学を人の心や行動を学ぶ学問と捉えるなら、この分野学びは学生にとって人生の方位磁針を発見する機会となるかもしれません。自身のあり方を決めることは、アイデンティティの確認にもなります。ぜひ自身の方位磁針を探してみてください。

――休日はどう過ごしていますか。趣味は。
  晴れた日は、お気に入りのカフェに出かけたり、地域の博物館や美術館のイベントに出かけたりします。3か月に1回くらい好きな劇団四季の舞台を観に行くのが自分へのご褒美になっています。コロナ禍が落ち着いたら魚釣りも復活したいですね。
コロナ禍になってからは人生でいつか読みたい本リスト(学術以外)を広げて、読書にどっぷり浸かりました。これはとても良い時間になりました。本好きの仲間と2021年に「オンライン読書飲み会」を結成し、月に一回、読んだ本について語ったり、作家さんに会えた時のエピソードを聞いたりも。本を通してその人が見る景色がまた新たな感動を与えてくれます。

――先生のクレド「面白き こともなき世を 面白く」は先生と同郷の高杉晋作の言葉ですね。
 高杉晋作は人間らしい泥臭さが垣間見える点が魅力的ですね。近くに居た方々は、ぶんぶん振り回されて大変だったように思えますが(笑)。27年という短い人生でしたが上記の句は、彼が人生をさまざまな葛藤の中でも全力で生き、その中でひとつの心の指針を持っていたと思わせる句です。
 心理学者のアドラーは、「人は誰しも客観的な世界ではなく、自らが意味づけを施した主観的な世界に住んでいる」と説明しています。青々とした草原を見て、「なんて綺麗なんだろう」と思う人もいれば、「でもあそこに枯れ木が一本生えてるし」と思う人もいます。
幸せはその環境の中にいる自分が、どんな意味付けをするかによるということです。普遍的な知恵は、時代や国を越えてさまざまな言葉で私たちに気づきを与えてくれます。そんな先人の学びを今に生かしながら、日々のささやかな「おもしろく」を大切にしていきたいと思っています。

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