検 索

寄 付

TOHO
INTERVIEW

2023.04.26

第92回 失われた19世紀の言語研究にロマンを見いだす

経営学部国際ビジネス学科

竹越 美奈子 教授

竹越 美奈子(たけこし・みなこ)
1996年東京都立大学大学院博士課程単位取得満期退学。2001年東邦学園大学経営学部専任講師。2007年愛知東邦大学経営学部准教授、2018年から現職。

竹越教授は19世紀中国の粤(えつ)語研究に長年取り組んでいます。中国語に興味を持ったきっかけ、外国語を学ぶ魅力、外国人との考え方の違いを理解する大切さ、そして趣味のヨガについて聞きました。

――粤語とはどんな言葉ですか。
 ひとことで言うと、中国南部の広東省で話されている中国語の方言、広東語のことです。今の広東省一帯は古くは粤と呼ばれていました。広東省には香港やマカオがあるので日本人にも馴染みがありますね。そこでも粤語が使われています。

――19世紀粤語を研究テーマに選んだ理由は。
 19世紀に書かれた粤語の資料は実は日本に多く残されているんです。世界で一番かもしれません。東京に東洋文庫という東洋学の専門図書館があって、そこにたくさん所蔵されています。教科書、辞書、宗教書などです。今ではオンラインで世界中どこからでも閲覧できますけれど、私が研究を始めた頃はそんなものはなかったので、すぐに資料を閲覧できる日本に住んでいるのは粤語研究にとても有利でした。日本の研究者がやらなければならないテーマだと思いました。

――19世紀粤語の魅力は。
 ロマンを感じることです。その当時に行った気分になるじゃないですか。今話されている言葉ではない、現在の広東省のネイティブでも知らない19世紀の言葉、本のなかにしかない言葉なんです。今の言葉と全く違っているわけではないんですが、言葉は変化していくものなので、今では話されていない言葉がたくさん書かれている。とくに19世紀の香港はアヘン戦争でイギリスに割譲されてから、世界中から様々な人たちが集まってきて、その影響で言葉もほんの短い50年くらいの間にダイナミックに変化したという歴史があり、そこにロマンを感じますし、大変面白い。とくに外国からやってきた宣教師はその国の言葉で布教しなければならないので、とても現地の言葉を研究するんです。だから当時の宣教師の書いた聖書などの資料は非常にレベルが高く、研究対象としても興味が尽きません。

――そもそも中国語を勉強しようとしたきっかけは。
 私が大学に入った頃は英語の他に第二外国語といって、英語、ドイツ語、フランス語などもう一つ外国語が必修でした。高校時代から麻雀が好きで、中華料理も好きで、馴染みがあったからでしょうか、第二外国語に中国語を選択したら、授業が面白かったんです。商学部に入ったんですが、私にはあまり合わなかったですね。最後まで興味が湧きませんでした。中国語の授業だけ面白くて、単位にならない授業まで取っていました。
 卒業後、就職してからも2年間、週一くらいで中国語を習いに行っていました。そのうちに中国語を本格的学びたくなって、その頃には中国語にも色々な方言があることもわかってきて、中国語学を勉強したいと思い、学士入学で東京都立大学人文学部の中国文学専攻に入り直しました。今度は、「やっぱり勉強って面白い!」と思いましたね。

――中国語、ひいては外国語を学ぶことの魅力は。
 言葉が通じた時って、素朴な喜びがありますよね。自分が言ったことをわかってもらえた時、相手の言っていることがわかった時の素朴な感動。やっぱりそれに尽きるのではないでしょうか。
 未知のこと、未知の世界を知る楽しみもあると思います。日本語以外の言葉に文化の違い、考え方の違いを発見する驚き、日本人の考え方が世界共通でないことに気づくことも多い。
外国語を学ぶことで、日本について、日本人について、そして自分自身についても客観的に見つめられようになります。

――先生の経験で具体的な例はありますか。
「公共」という言葉がありますね。中国語にもありますが、日本人は「公共のものだから大切にしよう」とか「公共の場所だから汚さないようにしよう」という感覚で「公共」という言葉を捉えています。でも中国人は「公共の場所だから誰でも使っていいし、汚してもいい」という感覚で「公共」という言葉を捉えます。外国に行くと道にごみが捨てられているのをよく見ます。日本人は「マナーが悪いな」と思いがちですが、そもそも公共の場所に対する認識が違っているのかもしれません。

――「認識が違う」だけで、「マナーがわるい」わけではない。
 日本では電車のなかで赤ちゃんが泣くと、母親は「周りに迷惑かけてすまない」と思います。中国では「公共の場所なんだから、赤ちゃんが泣いてもかまわない」、「赤ちゃんが泣くのはあたりまえ」、でも「赤ちゃんを周りのみんなであやしてあげよう」と考えるそうです。そう考えると日本のほうが窮屈ですよね。電車やバスの中でお年寄りや体の子どもづれの人に席を譲る光景も日本より中国のほうが多く見かけます。
 他国の人を批判するのは簡単ですが、自国の価値観だけで判断するのは考えものだなと、最近は中国式の「公共」の考え方の方がいいんじゃないかと感じています。

――外国語を学ぼうとする学生にアドバイスを。
 机の上だけの勉強でなく、実際に行ってみて、目で見て考えてほしいですね。メディアの報道だけではどれが本当なのかわからない。その人、その国でいろいろ考え方の違いがあります。ちょっと見るとよくないと思えても、それにはいろいろ考え方があります。「人に迷惑をかけちゃいけない」、というのが日本の感覚なんですけど、それがいつも正しいとは限らない、「人に少々迷惑をかけるけど、でもお互い様でしょ」、という考え方の社会もある。どちらがよいのか簡単に判断をくだせません。言葉だけでなく、その背後の「考え方」「文化」も一緒に学んでほしいなと思います。

――休日は何をして過ごしていますか。趣味は?
 ヨガを15年以上続けています。子どもの頃から運動が苦手で身体を動かすのも全て苦手でした。球技なんて相手の方に迷惑かけて申し訳ないくらいです。でも40歳過ぎるころから体調が思わしくなくなり、さすがに何か運動をはじめなきゃと焦って、「ヨガなら一人で、座ってできる」と始めました。教えてくれる先生も「ヨガはがんばらなくてもいいよ」といってくれたので。それまでは「スポーツはがんばらなくてはいけない」と思っていました。
 がんばらずに続けていたら、いつのまにか今では地元のヨガサークルで教えるようになりました。

母妹弟と。7歳頃(右端)

ヨガレッスン風景

側面を伸ばすポーズ

蓮華座

学校法人 東邦学園

〒465-8515
愛知県名古屋市名東区平和が丘三丁目11番地
TEL:052-782-1241(代表)