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TOHO
INTERVIEW

2023.07.04

第94回 EVシフト研究を通して日韓の絆をつなぐ

経営学部国際ビジネス学科

金 良泰 准教授

金 良泰(キム・ヤンテ
韓国仁川出身。明治大学大学院経営学研究科博士課程修了。韓国で複数の大学や研究所勤務を経て、2021年から現職。趣味はスポーツ観戦(野球・サッカー)、水泳。

金准教授は長年グローバルビジネスの研究に携わり、近年は韓国の水素・電気自動車開発戦略の分析と国際比較に力を入れています。エコカーを取り巻く世界的な状況や、日本・韓国の自動車産業が今後進むべき道を聞きました。

――エコカーを取り巻く現在のグローバルな状況はどうなっていますか。
 現在、長く世界の製造 業を牽引してきた自動車産業は、「CASE」革命という大変革期に直面しています。CASEとは「Connected(トコネクテッド)」「Autonomous(自動運転)「Share & Service(シェア&サービス)」「Electric(電動化)」という自動車産業の4つの重要なレンドを表す頭文字です。世界の主要完成車メーカーはCASEとカーボンニュートラルの目標を掲げ、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV/BEV)、燃料電池自動車(FCV)などの電動車(xEV)への移行を進めています。特に、2022年8月、米国で制定されたインフレーション抑制法(IRA: Inflation Reduction Act)はバッテリーのみで動く電気自動車(EV/BEV)政策――をきめ細かく規定しているためその対応が急がれています。

――日本のEVシフトは中国や欧米に比べて「周回遅れ」といわれています。
 2022年のEVの世界販売台数は約726万台となり、新車販売のうち、EVの占める割合は21年の5.5%から22年には9.5%まで拡大しました。国・地域別にみると、中国が21年比約8割増の約453万台を販売しておりグローバル市場を牽引しています。次いで西欧(ドイツ・イギリス)も約3割増の約153万台、米国は約80万台に達しています。一方、日本は約5万台に留まっており、EVシフトへの遅れを懸念する声も少なくありません。米欧中においてEVが急拡大したのは、米EV大手テスラの生産拡大、EU主導の強力な排ガス規制、「中国製造2025」によるEV拡大政策などが影響しています。

――日本車メーカーがEVシフトへ出遅れた要因は。
 過去、日系自動車メーカーは早い時期からEVを開発・販売しました。三菱自動車のi-MiEV(2009年)、日産自動車のリーフ(2010年)、トヨタ自動車のRAV4EV(2012年)などが世界市場で高い評価をうけたことは記憶に新しいです。しかし、EVは現在にいたるまで本格的な量産体制には至っていません。日系自動車メーカーはEVを次のように認識しました。まず、EVは充電インフラの整備、航続距離、バッテリーコストなど解決すべき問題を多く抱えているため、普及には時間がかかると認識したこと、次にEVの二酸化炭素排出量は生産から廃車までのライフサイクルでみるとHVと大きな違いはないこと、最後にバッテリーコストの高さから利益が出にくい構造であると考えたからです。
 日系自動車メーカーは、内燃機関の技術を磨き、HVの技術蓄積に集中しました。例えば、トヨタ自動車は「全方位品揃え・全方位戦略」を掲げ、HVをメインに捉えながら、多様な市場・顧客ニーズに応じてHV、PHVで対応し、将来的にはFCV(燃料電池車)に移行する戦略をとってきました。トヨタ自動車はHVをFCVが普及す
るまでの「中継ぎ」として位置付け、あくまでも内燃機関(エンジン)を活かすエコカー構想を続けました。

――日本の自動車産業は今後どう進むのでしょうか。
 2011年、日系自動車メーカーは一斉に電動化戦略の刷新とEV戦略を打ち出しました。トヨタ自動車は、2030年までに電気自動車の販売台数を350万台とし、EVに4兆円(電池投資は2兆円)を投資する計画を発表しました(2021.12)。日産も今後5年間にわたって、約2兆円を投資し、2030年までに15車種のEVを投入すると明らかにしました(2021.11)。すでに2040年を目途に新車販売をEVとFCVのみにすると発表したホンダを含めると、日系自動車メーカーのEV戦略は出そろいました。
 IRA法は北米(米国、カナダ、メキシコ)で生産されるEV車を対象に1台当たり最大7,500ドルの販売補助金を支給する、またFTA締結国・北米で一定割合の車載電池を製造・調達された場合には7,500ドルのうち半分にあたる3,500ドルを補助する内容です。日系自動車メーカーと電池メーカーは北米に生産拠点を移転・拡大する方針を相次いで発表しました。

――日韓が協力すればグローバル市場をリードできるのでは。
 現在、北米でEVを生産しているメーカーは日産自動車のみと言われます。トヨタ自動車とホンダは2025年までにEV生産とバッテリーの自社生産を発表しました。不足する車載用バッテリーは海外企業とのパートナーシップで対応する方針を固めました。例えばホンダは韓国のLGエネルギーソリューション(LGES)と合併会社を設立し車載用バッテリーを生産すると発表しました。トヨタ自動車も合弁会社設立に向けてLGESと交渉を行っています。
 IRA法のもう一つの特徴は中国EVメーカー・バッテリー製造企業のみならず、中国産バッテリー鉱物・原材料までを厳しく排除することです。今後、鉱物資源(リチウム、ニッケル、コバルト)・原材料(黒鉛)の安定的な確保・供給はサプライチェーン上の重要な問題となります。日韓が協力してサプライチェーンの問題に取り組めば、ビジネスチャンスは増えると期待できます。

――日本は「周回遅れ」を巻き返せるでしょうか。
 EVシフトに出遅れたと言われる日系自動車メーカーですが、その潜在能力は決して見劣るものではないと考えられます。例えば、HVで世界を席巻したトヨタ自動車はRAV4EVの経験から豊富なEV要素技術(モーター、インバーター、電池)を有しており、「全個体電池」の特許件数も世界トップです。さらに、パナソニックに代表される電池メーカーも蓄電池の正極、電解液、セパレータ、次世代負極(Si系)などの素材・部品・材料・装備・生産技術において世界トップレベルを誇っています。
 今後、日本が全固体電池を制すれば、次世代電池市場のゲームチェンジャーなれると同時にHV、PHV、EV 、FCVまでをカーバーする真の「全方位品揃え・全方位戦略」が完成されることになります。

――先生が来日することになったきっかけは。
 韓国で通った大学の交換留学プログラムを利用し、日本留学を決めました。韓国の高校では第二外国語の授業があり、日本語を選択していたので、より日本語をより学びたかったんです。初めは日本への好奇心でしたが、次第に他の勉強も面白くなり、東北学院大学、日本大学商学研究科(博士前期課程)、明治大学経営学研究科(博士後期課程)で経営学を専攻し、自動車産業における経営戦略、経営管理、人的資源管理について研究しました。
 日本留学で素晴らしい指導先生に巡り合い、研究・論文指導を受け一人前の研究者になれたことに感謝したいです。

――今年から愛知東邦大学と韓国の大学との交流が始まるそうですね。
 韓国の安養大学校(安養市)と啓明文化大学校(大邱広域市)が今年から海外交流協定校に指定されます。学生の皆さんが積極的に語学講習や留学にチャレンジして、両国の理解が一層深まるよう期待しています。

――学生へアドバイスを。
 日本の学生は本当にピュアで素直です。私はそんな学生たちの力になりたい。チャレンジしたいこと、アドバイスが欲しいことがあれば、遠慮なく言ってください。力の及ぶ限り後押しします。「一度きりの人生は短い。自分を信じ、自分がやりたい事を見つけ、楽しく生きよう!」

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