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TOHO
INTERVIEW

2023.08.29

第95回 保育幼児教育の原点「楽しさ」を科学する

教育学部子ども発達学科 

堀 建治 教授

堀 建治(ほり・けんじ)
愛知県豊川市出身。愛知教育大学卒、同大大学院教育学研究科修了、名古屋大学大学院教育発達科学研究科後期博士課程満期退学。中部学院大学短期大学部、ユマニテク短期大等の教員を経て2021年から現職。2023年から学部長補佐。

堀教授は、保育幼児教育の原点ともいうべき「楽しさ」を研究テーマに科学的に問い続けています。そして教育面での自分の使命を、「先生という職業に憧れる子どもを育てられる教員の育成」と言いきります。教員養成の道に進んだきっかけ、学生へのメッセージなどを聞きました。趣味ではクイズ番組の出演経験もあるとか。

――保育や幼児教育研究に興味をもったきっかけは。
 もともとは小学校の教員になりたくて、大学は小学校教諭養成課程に進みました。ところが、卒業論文で「レクリエーション指導者養成制度」に取り組み、小学校採用試験に合格していたにも関わらず、もっと深く研究したくて大学院へ。先のことを考えずに進学したので、人生設計が狂ってしまいました。幼稚園の教員免許を持っていたので、幼稚園教員になろうと、ある学園に就職活動に行きました。30年前のことですから、面接してくれた方は私を見るなり、「男の幼稚園の先生なんていないよ、無理だよ」。途方にくれていると、「実はうちの幼稚園には同じ敷地に幼稚園教員養成の専門学校がある。そこの教員になる気はないか」と勧めてくれました。その手があるかと、その専門学校の夜間部の教員に就くことができました。初めから保育とか幼児教育研究を目指したわけではありませんでした。

――幼稚園教員になるつもりが、幼稚園教員を養成する教員になったわけですね。
 面接してくれた方は、現在、その学園の理事長として活躍されているのですが、こう言ったんです。「あなたは子どもに直接教えたいだろうけど、教員養成も非常に魅力ある仕事だよ。幼稚園だったら受け持ちは一クラスで20人、30人。でも養成校だったら一クラスで50人、100人の学生を通じて、あなたの教えを間接的に受けた子どもが年間で3千人、10年で3万人にもなる。こんな素敵な仕事はないんだ」。この言葉に促され、「ああ、教員養成も面白そうだな」と養成の道に飛び込みました。

――「楽しさ」とは何か、が研究テーマですね。研究テーマに選んだ理由は。
 子どもたちは幼児期に達成感、挫折感など、様々な気持ちを味わい、成長します。そして「楽しさを味わう」という文言が幼稚園や保育園に向けた国のガイドラインにも明記されています。でも、子どもたちにとって「楽しさ」って何だろうか、と疑問に思ったのがそもそもの出発点でした。いろいろ調べても「楽しさとは何か」の説明がほとんど出てこない。偉い先生に尋ねてもどうもはっきりしない。「楽しさ」の正体がわからないのに子どもたちがその気持ちを味わえるのだろうか、納得できなかったので、このテーマを選びました。

――「楽しさ」の正体は見つけられましたか。
 まず仮説を立てました。「楽しさ」はどのように作られるのだろうか。現場の先生や子どもたちの様子を見ると、「楽しさ」は一つではないだろう、色々な要素が組み合わされて、初めて「楽しさ」ができるのではないか、という仮説です。赤ちゃんは快とか不快とか、単純な段階から感情や情緒が複雑に分岐してくる。「楽しさ」もそうではないか、生まれて間もない段階では比較的少ない要素で「楽しさ」という気持ちが形成されるが、年齢が重なるにつれ「楽しさ」を味わえる場面が少なくなっていく。パズルに例えると「楽しさ」の構成要素が複雑になってくる。「楽しさ」の構成要素がひとつでも欠けると「楽しさ」は半減する。この構造モデルを学会発表しました。次の課題は構成要素の具体的な特定・提示です。

――今後はどのように研究を進めますか。
 「客観的な指標」作りを目指しています。愛知東邦大学に奉職する際の最終面接で、当時の榊直樹学長に指摘されました。「あなたの研究は『楽しさ』を科学することだよね」。これだ、と思いました。私の研究の根本的な課題は「いかに『楽しさ』を科学するか」、だったと榊学長の指摘で気づきました。
そこで、科学する研究の一つとして、教師と生徒の間の逐語記録から「楽しさ」の要素を抽出する研究を始めました。「楽しさ」はお互いが響き合った時(共振性)に生まれると想定。アイコンタクトと言葉に注目して、視線を測定できるアイセンサーを導入し、逐語記録とカメラで追尾した表情の変化を組み合わせて、共振性の科学的客観的な測定を目指しています。現在は前段階として小型カメラを使い、教師と子どもとのやり取りを複数の方向から動画で調査しています。

――授業で心掛けていることは。
 子どもと対等に関われる先生を育てることです。今の学生たちは絶対的な体験が足りない。薪を割って火をおこすとか、昆虫を捕るとか、海で泳いだりとか。国の指針では「子どもたちに豊かな体験をさせましょう」とあるけれど、先生自身がそういう体験がないのに、子どもたちに伝えられるはずがありません。私の授業ではまず遊びを体験する。周りから見たら「あいつら何やっているんだ、遊んでばっかりじゃないか」と思われているかもしれません。でもとても大事なことです。例えばコマ回し。今の学生はコマを回せない。でも教えて回せるようになると「おおっ」って驚いている。なかにははじめから回せる学生もいて、「どうやってやるの?」と学生同士で教え合っている。この姿は幼稚園・保育園の先生と幼児の姿と同じです。対等にみんなで学び合っている。学生に体験が足りないと嘆いているばかりでなく、足りない体験をどこで補うかといえば授業でしかないだろうと。私だけでなく教育学部全体の教員が意識して授業に体験を取り入れているのではないでしょうか。

――学生へのメッセージを。
 学内でも、学外に出ても、どんどん失敗してほしい。失敗しても帰ってくる場所があるんだから。今の学生は失敗することを嫌がる。学外実習も「怖い、行きたくない」と。20年前の学生だったら、「大学の授業なんかより、早く実習に行きたい」と平気で言っていました。そこを払拭しないと世間の荒波に投げ出されたときに耐えられず沈んでしまう。大学生のうちはトライ&エラーで、たくさん失敗して前に進んでいってほしいですね。

――趣味は。
 野球観戦。筋金入りのドラゴンズファンです。クイズも好きで「アタック25」に出演したことがあります。司会の故児玉清さんと一緒の写真は今でも私の宝物です。最近BSでこの番組が復活したので応募したのですが予選会で落ちてしまいました。勉強不足ですね。

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