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TOHO
INTERVIEW

2023.10.26

第97回 美容・ファッションと「心の健康」の関連を探究

人間健康学部人間健康学科

尚 爾華 教授

(学部長補佐)

尚 爾華(しょう・じか)
中国黒竜江省ハルビン市出身。ハルビン医科大学医学部卒業後、医師(公衆衛生)として勤務したのち日本に渡り、2006年札幌医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。2012年愛知東邦大学人間学部准教授、2014年人間健康学部准教授、2020年同教授。2023年から学部長補佐。

尚教授は幼いころから医学に興味があり研鑽を積みました。そして、病気を「治す」よりも、「予防する」ことが重要だと考え、公衆衛生学・予防医学を専門分野として、人々の健康について、広く興味を持ち、研究教育に取り組んできました。この分野を目指したきっかけ、これまでの研究テーマ、最近取り組んでいる研究内容などを聞きました。

――公衆衛生学・予防医学とは。
「公衆」は「人々」のこと、「衛生」は「生を衛(まも)る」という意味で、公衆衛生学は人々の生命を衛る、とても広範囲な学問です。その中で、特に健康長寿社会の実現のため、病気を予防し、人々の健康を促進する研究分野が予防医学です。

――予防医学、公衆衛生学研究を志したのは。
 きっかけはハルピン医科大学医学部在学中の実地研修でした。病院での臨床実習よりも、行政機関の保健福祉局や疾病予防管理センター(CDC)での実習に働きがいを感じました。住民集団の健康管理や行政によるマネジメント、次世代への健康教育が、社会全体の健康とWell-beingを実現する上で大きな役割を担うと考えるようになりました。卒業時に同級生の大多数は臨床医師の道へ進みましたが、私は公衆衛生医師として行政マネジメント業務を行いながら、ハルビン医科大学公衆衛生大学院修士課程を修了しました。

――その後、札幌医科大学大学院博士課程へ進学。
  その前に私は黒龍江省と北海道の友好提携による若手医師研修プログラムに参加するため、10か月間札幌に滞在したことがあります。お世話になった指導教官の下でもっと勉強したいと思うようになり、30歳目前に再び海を渡り、札幌医科大学大学院博士課程に進学しました。その後、栄養士を育成する短大教員を経て、本学人間健康学部(当時人間学部)教員として、予防医学の視点から人々の健康に関する研究教育に従事しました。この分野では学部生時代から数えると約30年になります。

――人間健康学部が掲げている3分野、「身体」「心」「社会福祉」を研究テーマとして取り上げている。
 出発点は「身体」の健康である「食」と「運動」でした。それまでの経験を活かし、大学生の朝食摂取状況、高齢者の食習慣と現在歯数との関連および低栄養問題、児童生徒の食生活と口腔衛生の日中国際比較など「食」に関して取り組みました。「運動」に関しては、博士課程で「札幌市国保ヘルスアップモデル事業」という行政と大学が共同で実施した高齢者の運動習慣確立プログラムに参画しました。高齢者の健康と生活の質(QOL)の向上には、自宅や周辺で楽しく継続できる運動が効果的と分かりました。2014年からは名古屋市において体操教室に参加する高齢者の運動と健康状態について継続調査を行いました。こういった食や運動による健康管理に関する研究は、大学教育活動にも密接に関係するので、私の研究基盤となっています。
「社会福祉」としては、高齢者が暮らしやすい町をテーマとしました。市内福祉会館など高齢者の「通いの場」におけるアクションリサーチ(研究者自ら参加して調査する)や、国立長寿医療センター研究チームとの共同研究で、認知症スティグマ(偏見)の克服をとおした認知症にやさしいまちづくり研究に携わりました。

――昨年からは「心」の健康である幸福度の研究に取り組んでいる。
 私は調査活動の現場で、高齢になっても外見に気を配り、美容やファッションを楽しむことが、幸福度(主観的Well-being)の向上に寄与する可能性があることに気づき、この仮説を検証しようと昨年から共同研究チームを立ち上げました。高齢者700人を対象にアンケート調査した結果では、美容・ファッション、身だしなみに対して前向きな姿勢を持つ高齢者のほうが、幸福度(WHO-5 精神的健康状態表)がより高いと分かりました。その研究結果を今年6月に横浜市で開催されたアジア/オセアニア国際老年学会で報告し、9月には国際老年医学誌にも論文発表しました。ただ、横断研究であるため、詳しいメカニズムはまだ不明で、来年はインタビュー調査を併用した追跡調査をする予定です。将来的には交通機関の割引パスのような、高齢者が誰でももっと気軽に美容・ファッションを楽しめるように、美しく年を取る「美齢パス」(例)などを政策に提案できたらと考えています。高齢者が幸福で健康なら国が負担する医療費軽減にもつながりますしね。

――今後の研究目標は。
 今の時代では、健康寿命(自立できる)の延伸が世界共通の課題となっています。さらには、何歳になっても、たとえ持病があっても「幸福」でいられる「幸福寿命」が重要になってくるかもしれません。
今後はこれまでの研究成果の社会実装に力を入れて、自身も中高年者のひとりとして実際に体験し、身体、心、社会福祉の3分野において、人々の役にたつよう社会へ還元したいと考えています。

――学生に伝えたいメッセージは。
 もっと行動範囲を広げていってほしいです。国内外を問わず住み慣れた故郷以外の場所を訪ねるなど、広い世界に目を向けてほしいと思います。そして、たくさんの人と出会ってほしいです。「出会いに感謝」は私が好きな言葉です。自分自身の今の環境を客観的に見つめ直すことや、素敵な出会いから将来に向けてやりがいのある仕事や人生の過ごし方のヒントをもらえるかもしれません。そして、自分の可能性を信じ、学業に限らず、何でもほんの少しでもいいので高い目標にチャレンジしてください。

――休日の過ごし方は。
 名古屋ではマラソンフェスティバルナゴヤ・愛知が毎年開催されますね。そのうち名古屋ウィメンズマラソンが有名ですが、男性が参加できるシティマラソンもあります。私は今年3月、初めてこの大会のボランティアとして、海外ランナーの前日受付と大会当日コース(沿道)の整理を担当しました。目の前でカッコ良く走るランナーに触発されて、「自分も走りたい!」と思い、休日には、近所で少しずつ練習を始めました。適度な運動は、何歳になっても「心身の健康に良い」と改めて実感しながら、休日はのんびり過ごしてリフレッシュしています。

6月横浜市にて国際学会

教室にて

教室にて

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