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寄 付

TOHO
INTERVIEW

2024.01.29

第102回 新興国に適した新しい経済理論を探究する

経営学部国際ビジネス学科

チャン・ティ・トゥイエイト・ニュン 助教

Tran Thi Tuyet Nhung(チャン・ティ・トゥイエイト・ニュン
ベトナム社会主義共和国ハノイ市出身。ハノイ大学日本語学部卒業。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。名古屋商科大学非常勤講師などを経て2020年から現職。

チャン助教は、子どもの頃、父親の語る日本に憧れ、日本に留学、日系企業でキャリアを積みました。研究者になってからは、先進国をモデルとした既存の経済理論にとらわれない、新興国独自の経済理論構築を目指しています。これまでの日本との関わり、研究内容、日本の学生たちへの期待などを聞きました。

――出身はベトナムのハノイ市。どんな子ども時代を過ごしましたか。 
 生まれはハノイ市ですが、小学校から高校まで過ごしたのは、教員だった母の転勤先ハイフォン市です。ハノイ市の100キロくらい東にある港湾都市です。母が高校で文学を教えていたので家には本がたくさんありました。読書が大好きで、留守番しながら家にあった本はほとんど全部読んでしまいました。

――大人が読むような本を、ですか。
 難しくて、よく理解できなかったですけどね。おもちゃを買ってもらえなくて、読書しか楽しみがないという環境だったからと思います。中学生になると母から、読んだ本の感想文を書くよう言われました。少しずつですが文章を書く練習になりました。今、論文を書くことに抵抗感がないのは、子どもの頃、本を読んで内容をまとめるという習慣がついたからと感謝しています。

――お父さんが日本に興味を持つきっかけを作ってくれたと聞きました。
 弁護士だった父は外国の法律を調査するため海外に行く機会が多く、 帰国しては外国の様々な話をしてくれました。お土産も買ってきてくれて、その中に日本の伝統的な人形がありました。それを見て「素敵だな、この人形を作った日本ってすごくいい国なのだろうな」と憧れました。父は日本のめざましい経済発展についても話してくれ、日本への関心が深まっていきました。

――それでハノイ大学の日本語学部に進んだ。
 ちょうど大学進学の頃、ベトナムで日本語がブームになっていました。様々な日本の企業がベトナムで工場を建設したり、ビジネスを始めだしたりしたからです。それを見て、「いつか日本とビジネスができたらいいな、そのためには英語より日本語を勉強した方が有利だろうな、日本語学部に進もう」と決意しました。

――そして日本留学を目指して日本の文科省の奨学生試験を受けた。
 大学1年生終了時に合格して、現在の大阪大学国際教育交流センターに奨学生として1年間籍を置きました。ここでは日本文化、日本語だけにとどまらず、経済、ファイナンス、技術など幅広い授業が世界中から選抜された留学生たちに行われていました。そこで素晴らしい先生に出会い、経済、経営、マーケティングなどに興味を持ちました。
 1年後に一旦帰国して、ハノイ大学を卒業し、ベトナム富士通株式会社という企業に入りました。ベトナムにある日本企業です。ベトナムでの数カ月の研修後、富士通株式会社・ソフトウェア事業本部・沼津工場の開発部門に勤務することになりました。富士通在社中にマーケティングに関して知識不足を痛感して、もっと勉強しようと京都大学大学院に進み、研究者の道を志しました。

――研究テーマは「新興国の小売業の近代化」。新興国というのはベトナムのことですか
 ベトナムと周辺の東南アジア諸国に焦点を当てて研究しています。経済や商業を説明する現状の理論システムのほとんどは先進国の経済発展に基づいて開発されたものです。新興国とは経済発展の途上に位置している国や地域のことですが、先進国とは発展のプロセスが異なります。先進国を対象とした既存の理論をそのまま新興国に適用することはできません。新興国の経済発展プロセスに適用できる新たな経済理論が必要なのです。その経済理論構築を目指しています。

――新興国には新興国の理論システムが必要ということですね。新興国の小売業にはどんな特徴があるのですか。
 例えば、アメリカや日本の小売業は長期間かけて進化してきました。日本では、商店街が長い間利用されていて、次に百貨店が、そしてスーパーマーケットが発展し、その後コンビニが乱立、今ではオンラインが主流です。業態の進化はゆっくりです。逆にベトナムなど新興国では、様々な変化がほとんど同時に起きたのです。ベトナムでは1990年代、スーパーマーケット、コンビニスト、オンラインが一気に入ってきて、今は共存状態になっています。日本では伝統的な小売業態は衰退し、反対に近代的な小売業態が発展してきていますが、ベトナムなど新興国では伝統と近代が「共創」していくという、先進国とは異なった経済構造になっているのです。

――「共創」とは、異なる業態が協力したり、競い合ったりして、新たな商品・サービスや価値を創りだすことですね。
 私は自分の研究を通じて、新興国の様々な業態の「共創」を説明できる理論システムをはじめ、新興国に適用できる新たな理論システム構築の一助になれれば、と考えています。一人で一気に全部というのは難しい大きなテーマなので、他の研究者とも共同して少しずつ進めているところです。

――そのひとつとして、現在は日本とベトナムの商業発展プロセスの比較を行っている。
 日本とベトナムは、経済的背景や歴史・政治・文化等は異なりますが、ともに商業発展では独自の進化を遂げています。ベトナムは多国籍企業の進出が顕著です。多国籍企業は進出した国の商業の近代化に大きな影響を及ぼします。多国籍企業の進出がベトナムの商業、小売業にどんな影響を与えているか、どんな変化・発展をさせているかの観察を当面の研究テーマとしています。

――先生の目に映る日本の学生は。
 日本の学生は真面目で、自分の価値を大切にします。これは素晴らしい特徴です。スケジュールを守り、責任を持って自己学習に取り組むなど、多くの強みを備えています。ただ、もう少し考え方をオープンにできればと感じます。自分の国をより深く理解するためには、他の国を観察することが必要です。私の経験から言えば、海外に訪れることで初めて自分の国の価値がわかるようになりました。オープンな考えを持って色々なことを調べてみれば、日本の新たな価値を発見できるでしょう。日本では少子高齢化社会が急速に進んでいます。海外と手を組んでいかないと難しい状況となっています。日本の学生がもっと広い視野を持って、他国の人材と協力すれば日本経済の発展に貢献できると思います。

――休日の過ごし方は。
 週末は10歳と6歳の娘の子育てにほぼ全部、時間をとられています。ピアノや英語などの習い事がたくさんあって、送り迎えや世話で今は精いっぱいです。私自身はスポーツが大好きで、学生時代は卓球が得意でした。子育てが一段落したら再開したいですね。

子どもたちとベトナムのホーチミン廟にて

次女とロスのグラミーミュージアムで

長女とスタンフォード大学の図書館にて

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