東邦学園短期大学から愛知東邦大学まで37年間の教員生活を終え、3月末で退職する元経営学部長の中山孝男教授。学校法人の理事の任期が切れるのを機に、定年まで1年を残して学園を去ることを決められました。マルクスやアダム・スミス、J.S.ミル、リカードなど経済学の本がずらりと並ぶ本棚を整理中の研究室にお邪魔して、学園の思い出や今後について話していただきました。
――長い間、お疲れ様でした。先ずは教員生活を終えるにあたって今の気持ちをお聞かせください。
忙しい時もありましたが、一言でいえば楽しかった、です。好き勝手なことをさせてもらい、時間を自由に使わせてもらいました。授業の空き時間を見つけて本屋を回ったり食事をしたり、栄まで好きなクラシックのコンサートに行ったこともありました。
――誰に聞いても真面目な人柄と言われる先生から、自由な教員生活の話が出るとは思いませんでした。とは言え、学生に分かりやすいように独自のテキストを作っていたと聞きました。先生の授業は評判だったのでは。
いえいえ、僕の授業は面白くなかったと思いますよ。「経済」というと今の学生はなかなかやりたがらない。だから教養で必要と思われることを毎回4ページの冊子にして受講した学生には渡していましたが、もらうと安心して居眠りをしたり携帯をいじったり、僕の学生時代も同じようだったから批判できませんけどね。今は実務的な何々しよう、というゼミが人気で、本を読もうぜ、というゼミは人気がありません。昔、J.S.ミルの「自由論」を読むというゼミを募集したら希望学生は0でした。今の学生は新聞も読まないですからね、寂しいですよ。経営学部は幅広い人材がいるから、学生にも好評なのではないでしょうか。でも僕みたいに専門的なことをやる人も必要だと思います。
――専門はマルクス経済学。それと古典経済学のデビッド・リカードです。リカードでは何本も論文を書かれています。現代で一番関係が深いのは、自由貿易の基礎理論を提唱したことですね。
まさに今のテーマです。リカードが提唱した自由貿易が、アメリカのトランプ大統領が再度登場して輸入品に高い関税をかけるなどと言い出し、危機にさらされています。トランプ大統領は無茶苦茶ですよ。世界はどうなるかは不安ですが、研究はまだまだこれから面白くなりそうです。
――リカードの話になると生き生きとされますが、それはおいて少し昔のことをお聞きします。短大時代を知っている数少ない教員のお一人なので。4年制の東邦学園大学になる時はいろんな議論もあったと思いますが。
東邦学園短大は90年代、ビジネス系短大では東海地域で人気ナンバー1の時もありました。しかし短大人気にも陰りが出てきたので、4年制大学を作ろうという機運が盛り上がってきました。本職が「経済」だから経済学部を作ってほしかったけど、「経済では学生が来ない」と言われ、当時は経営学の人気が高かったこともあり、結局、地域に密着する学生を輩出するためと、日本で初めて地域ビジネス学科を作ったわけです。
――東邦学園大学の開学(2001年)の際のご苦労はありましたか。
ちょうど教務委員長をやっていて、ゼロからいろいろなルールを作りました。今もあるグリーンカード(卒業に向けた取得必要単位数の可視化)や不正行為の懲戒規程なども、他の教職員と一緒に作り上げました。教員は寄り合い世帯だったので、「前の学校ではこうだった」とか、それをまとめ上げるのが大変で、結構辛い思いもしました。
――そんな苦労をして開学し、やがて愛知東邦大学となりました。小さいながらも誇りに思うこともあったとお聞きしました。
東日本大震災の時のボランティアの多さは特筆ものです。ボランティア参加者を在学生で割ると、その比率が断トツで日本一でした。千数百人しか学生がいないのに、早稲田なんかより多かった。すばらしい学生たちだと誇らしく思いました。元気がいい学生も多くて、就職もいい会社に入っていたし、海外に出ていく人やキャリアコンテストで全国上位に行った女子学生もいました。そうそう、軟式野球は日本一になりました。あれには本当に驚きました。女子サッカーも頑張っていました。
――後わずかで思い出深い学園を後にされますが、退職後は?
仕事はしません。教員時代は自由な時間があったと言いましたが、思ったより長期で取れたわけではありませんでした。だから、これまでできなかったいろいろな旅行に行きたいと思っています。自動車、産業遺産、海外の3つの旅は是非とも行きたいです。ドライブが好きなので、例えば国道1号線をゆっくり走って東京まで行ったり、琵琶湖も周ってみたことはありません。各地の産業遺産も見て回りたいですね、鉄橋とか工場とか、木曽川には発電所がありますね。海外では何といってもイギリスを旅してみたいです。鉄道であちこち泊まりながら。これまで研究してきましたが行ったことがありませんので。マルクスやリカードが歩いた地を実際に見て感じてみたい。まだ産業革命の遺構も残っているでしょうから。妻と一緒か?って、いえ、一人でのんびり旅しますよ。
――最後に学園に贈る言葉をお願いします。
100年続いてきた東邦学園の教育の特色をしっかり受け止めて、愛知東邦大学が小さいながらもきらりと光る大学として、地域に密着する学生を輩出していってほしい、ですね。