小さな子ども3人を連れて研究生活を送っていたスウェーデンに届いた内定通知。慌ただしく帰国し本学に着任して1年が経った武准教授に、学生や研究、大好きなスウェーデンのことなどをお聞きしました。
――大阪で生まれ、大学も大学院も関西です。なぜ愛知東邦大学に?
2010年に結婚と同時に夫の職場のある愛知県に住み始めました。子育てもこちらでしていますし、こちらで職を探していました。2023年8月から1年間の予定でスウェーデンのウプサラ大学で研究をしていた時に、愛知東邦大学から内定をいただき、在外研究を途中で切り上げて2024年4月より着任しました。
――本学では教育社会学、教育原理、教職概論、教育課程論などを教えていらっしゃいますね。
教育社会学では教育格差やジェンダー、セクシャリティの多様性など教育に関する様々な社会的課題を取り扱っています。2年生のゼミでは、外国の保育制度や教育制度について学生とともに学んでいます。3年生のゼミでは多文化主義や多様性などを学ぶための教材を使用しています。学生にとっては初めて聞いた単語も多く少し難しい内容もあったようですが、一生懸命ついてきてくれました。素直で、良い着眼点を持っている学生たちと日々授業やゼミで楽しいやり取りをしています。今後も国内の多文化化が一層進み、学校や幼稚園、保育園の多文化化への対応もますます求められている中、教師、保育士としても一市民としても、多文化主義や多様性について学ぶことは必要なことだと思います。
――大学に関する研究をされていますね。
現在の研究テーマは「スウェーデンの大学における学生の参画による教育改善」です。1960年代、日本と同様にスウェーデンでも学生運動が起こりました。スウェーデンでは、大学運営を円滑に進めるために学生を大学改革に取り込み、「学生」「教員」「大学」の三位一体で大学自治を行うようになりました。近年、大学の教育改善への学生参画は国際的にも重視されています。日本では学生が大学運営に直接関わることはあまりなく、学生自治会のような組織がない大学もあります。本学には「学生会」があり、学生による学生のための組織があるというのは、学生の参画による教育改善を進めるうえで良い側面だと思います。また、大学に関する研究だけでなく、学校のいじめ対策や教育カリキュラムに関する研究も行っています。
――ところで、なぜスウェーデンだったのでしょうか。
スウェーデンの教育に興味があったからです。学部生のときに1年間の交換留学生としてベクショー大学(現在のリンネ大学)で学び、教育学の授業で「開発教育」という開発途上国と先進国との様々な格差を、参加型学習によって学ぶ教育活動に出合いました。ロールプレイに取り組んだり議論をしたりしながら学ぶ授業は、新鮮で大変刺激的で面白かったです。「こんな学び方もあるんだ」「この新しい教育手法をもっと学びたい」と強く思い、留学から帰国してすぐに「開発教育」の講座のあった神戸大学の大学院を受験・入学し、研究を始めました。スウェーデン留学は私の進路選択のうえでの転機になりました。
――スウェーデンには5、6回行かれているそうですが、魅力は何ですか
自然が多いところや街並みなど魅力はたくさんありますが、一番は優しい人柄ですね。2002年の最初の留学では、ベクショー市のホストファミリーに1年間お世話になりました。今でもそのご家族とは交流が続いています。とても優しい人たちで、ウプサラ大学で在外研究をしたときも、ベクショーからウプサラまで車で片道6時間もかけて、私と子どもたちのために洋服やおもちゃ、日用品をたくさん持ってきてくれました。クリスマスの時も、私たちを歓迎してくれました。子どもたちは、初めて会うサンタクロースとスウェーデンの伝統料理、たくさんのクリスマスプレゼントに大興奮していました。このようなスウェーデン人の優しくてあたたかい人柄も魅力だと思っています。
また、スウェーデン語の「ラーゴム(Lagom)」にもとづく生き方・考え方も魅力です。「ラーゴム」は「ほどほどで」「ちょうどいい」という意味で、スウェーデン流の生き方を表す言葉です。それまで私は「こうあらねばならない」と肩肘張って生きてきました。2023年のウプサラ大学での在外研究の期間、私1人で子ども3人(当時、小3、小1、年中)を連れて滞在していました。研究も子育ても両方を完璧にやらなければいけないと切羽詰まっていた私に、共同研究をしているスウェーデン人の女性教員が「ラーゴム」「焦らず、バランスを見ながら進めていけばいいよ」と言ってくれました。その一言でとても救われました。「ラーゴム」な生き方で、その時の状況に合わせてちょうどいいバランスを見つける生き方、考え方も魅力だと思っています。
――最後に学生たちに一言お願いします。
私のクレドは「万里一空」です。目標に向かって歩き続ける(努力を続ける)、という意味です。また「人間万事塞翁が馬」という言葉も、私自身の指針です。学生たちも、つまずくこともあるかもしれないけれど、悪いと思った出来事が良い出来事に変わるかもしれません。実は、私も英語教師になるために英国への留学を第一希望にしていましたが、スウェーデンに留学することになりました。当初の希望通りではなかったけれども、新たに決まった留学先で学びたいことをみつけて、挑戦しました。そして、それが今の自分になっているわけです。「塞翁が馬」です。学生たちも保育士や教師の夢を実現する過程で、時には思い通りにいかないこともあるでしょう。いろいろな機会も前向きにとらえて自分なりの道を見つけて歩き続けられるように、全力で学生のサポートをしたいです。